血栓症に関するQ&A PART6
6.末梢血管・深部静脈血栓症・肺塞栓症 Q50 静脈血栓塞栓症の診断におけるDダイマーと可溶性フィブリンの意義の違いはどのようなことでしょうか
血栓と循環 Vol.19 No.1, 168-170, 2011
Answer
フィブリン関連マーカーと血栓形成
深部静脈血栓症/肺塞栓症(DVT/PE) 1)の診断には,Dダイマー,フィブリンならびにフィブリノゲン分解産物(FDP)や可溶性フィブリン(SF)などのフィブリン関連マーカーが用いられてきた.フィブリノゲンにトロンビンが作用すると,E分画が活性化されD分画と結合しやすいフィブリンモノマー(FM)となる.このFM1分子に対し2分子のフィブリノゲンが瞬時に結合してSFとなる.SFにさらにトロンビンが作用すると,フィブリンの重合化(フィブリンポリマー)が起こり,血栓形成へと至る.少量のトロンビンは直ちにアンチトロンビンやフィブリノゲンにより不活化されるので,血栓形成にはトロンビンとSFの共存が重要であり,SFが増加した病態は血栓準備状態と考えられる.
フィブリンポリマーがFXⅢにより安定化し,プラスミンなどにより分解されると,Dダイマーとなる.血栓の材料となるSFと異なり,Dダイマーそのものに血栓形成能はなく,Dダイマーの増加は血栓形成の結果と血栓溶解を反映する.フィブリノゲンが直接プラスミンにより分解されると,Dダイマーは形成されずに,FDP(X,Y,D,E)は増加する(図1) 2).
フィブリン関連マーカーと時間経過
図2にDVT発症後の血漿SF値とDダイマー値の変動を示す3).
SFはDVT発症日と翌日にピークがあり,2日目には低下する.DダイマーはDVT発症後2日目にピークとなり,7日目ぐらいまで高値である.一般に,血栓症の発症により血中SFがまず増加し,続いてFDPとDダイマーが増加する.SFのピークは約1日で,Dダイマーは約1~2週間であり,FDPはその中間である.もちろん,経過中に血栓が新たにできると,血漿SFやDダイマーのピークは延長する.Dダイマーの増加している期間が長いことは,設定されたカットオフ値におけるnegative predictive value(NPV)が100%である期間も長いことを示し,外来患者のDVT/PEの除外診断に有用である.
ヘパリンなどの抗凝固療法により過凝固状態が改善されると,FDPやDダイマーはしばらく増加したままであるが,SFはすみやかに低下する.このため,血栓が存在しても発症後数日経過するとSF陰性となってしまう.逆に,血栓形成後の過凝固状態が改善するとすみやかに血漿SF値が低下することを利用して,血漿SFはDVT/PEや播種性血管内凝固(DIC)の治療効果を反映するとの報告4)もある.
Dダイマー測定のみではDVT発症直後の急性期DVTを見逃してしまう恐れがあり,SF測定のみではDVT発症数日後のDVTを見逃してしまう恐れがある.SFとDダイマーのそれぞれの欠点を補うために,SFとDダイマーを同時に測定した検討5)を紹介する.SFやDダイマーの単一の測定は,除外効率を優先するとDVTの見落としが多くなり,見落としを減らすと除外効率が悪くなる.そこで,SF>6.9μg/mLあるいはDダイマー>2.5μg/mLを画像診断の施行基準にすると,除外効率をそれ程悪くせずに,DVTの見落としを著しく減少させうる.
組織型プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)などによる線溶療法が行われると,SFは増加しないが,Dダイマーは著しく増加する.血栓量が同程度であれば,線溶療法によるDダイマー増加が著しいほうが治療効果は良いと考えられる.Dダイマーのモニターは,DVT/PEに対するより効率的な線溶療法を可能にすることが示唆される.
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。