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血栓症に関するQ&A PART6

5.血液凝固・線溶系 Q44 新規DIC治療薬としてリコンビナント・トロンボモジュリン製剤が使われるようになりましたが,どのような病態のDICに使うべきなのでしょうか

丸藤哲

血栓と循環 Vol.19 No.1, 148-152, 2011

Answer
トロンボモジュリン(Thrombomodulin:TM)とは

 TMは血管内皮細胞上に発現する1本鎖糖蛋白であり,N末端レクチン様ドメイン,6個の連続するepidermal growth factor(EGF)様ドメイン,セリン/スレオニンに富む(O型糖鎖結合)ドメイン,膜貫通ドメイン,細胞質ドメイン(C末端)からなり,O型糖鎖結合ドメインにはコンドロイチン硫酸様糖鎖が連続している1)2) (図1).TMはトロンビンとトロンビン/TM複合体を形成して,抗凝固,向・抗線溶,抗炎症作用を発現する.

 抗凝固作用:プロテインCは肝臓で産生されるビタミンK依存性プロテアーゼであり,TM第5,第6EGF様ドメイン(以下第5ドメイン)に結合したトロンビン(トロンビン/TM複合体)を介して第4ドメインにプロテインCが結合する.この過程はプロテインC受容体(endothelial protein C receptor:EPCR)によるプロテインCのトロンビン/TM複合体への親和性増強により効率的に進行しプロテインCはEPCR上で活性化プロテインC(APC)となる1).C4b結合蛋白(C4b binding protein:C4BP)は7個のα鎖からなるC4BPαと7個のα鎖と1個のβ鎖を有するC4BPβが存在するが,C4BPβがプロテインSと結合しその活性を阻害している.EPCRから解離したAPCはC4BPより遊離したプロテインS分子上に結合し同様に結合したFⅤa, FⅧaを選択分解して,トロンビン形成の最も重要な律速段階であるテナーゼ(FⅨa/FⅧa)およびプロトロンビナーゼ(FⅩa/FⅤa)複合体産生を抑制して凝固反応を阻害する.

 向線溶・抗線溶作用:APCは線溶阻止因子であるplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)と結合,不活化して線溶作用を増強する.Thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)は肝臓で合成・分泌される1本鎖糖蛋白である.プラスミノゲンはフィブリンC末端Lysに結合してtissue-type plasminogen activator(t-PA)作用を受けてプラスミン変換されて線溶が発現する.TAFIはTM第3ドメインに結合し,第4,5,6ドメインを必須(トロンビンおよびプロテインCのTMへの結合)として活性化されTAFIaとなり,TAFIaがプラスミノゲン結合部位であるフィブリンLys残基切断をすることによりt-PAによるプラスミノゲン・プラスミン変換を阻害して線溶抑制作用を発現する3).高濃度トロンビンが必要な状態では,TAFIaはフィブリン溶解を防ぎ止血・創傷治癒に関与するが,APC形成に伴うトロンビン産生抑制およびトロンビン/TM複合体形成減少に伴いTAFI活性化阻害が起こり,TAFIaによるプラスミノゲン活性化抑制が解除されることにより相対的に線溶活性が亢進する.
 抗炎症作用:TMはレクチン様ドメインを介した直接的抗炎症作用に加えて,白血球(単球と好中球)および血管内皮細胞上EPCR,あるいは好中球に含まれるproteinase 3(PR3)に結合した可溶性EPCRを介するAPC(APC/EPCR)のprotease-activated receptor1(PAR1)活性化作用により抗炎症作用を発現する4)5).レクチン様ドメインはhigh mobility group box 1 protein 1(HMGB1)を吸着し,その後HMGB1はTMに結合したトロンビンにより限定分解を受けて失活する6)7).PAR1は通常トロンビン等をリガンドとして炎症作用を惹起し,APC/EPCRをリガンドとする場合は抗炎症反応を呈するが,相反する反応機序の詳細は明らかにされていない.TM/APC/EPCRの抗炎症反応として,NF-κB発現抑制によるTNF-α依存性接着分子発現低下,白血球および血管内皮細胞からの炎症性サイトカイン等の放出抑制,抗アポトーシス蛋白Bcl-2レベルを維持しつつ向アポトーシス蛋白であるp53・Baxのダウンレギュレーションを起こす抗アポトーシス作用等が知られている8).さらに,APC/EPCRはPAR1活性化を通じ誘導したsphingosine kinase-1(SphK-1)を介してsphingosine-1 phosphate(S1P)をアップレギュレーションする.S1Pは活性化血小板からも放出されるが,内皮細胞上のG蛋白共役型S1P受容体-1(S1P1)を通じて情報伝達し細胞骨格(cytoskeleton)構成要素の安定化および血管内皮細胞透過性亢進抑制により血管内皮細胞防御機能を増強する8)9).
 カリクレインが高分子キニノゲンに作用して生じるブラジキニンはB2受容体を介して血管拡張,透過性亢進,サイトカイン産生による白血球-血管内皮細胞活性化を引き起こして炎症反応を惹起するが,TAFIaはブラジキニンを不活型des-Arg9-bradykininへ変換して抗炎症作用を発現する10).活性化された補体フラグメントであるC3a, C5aはアナフィラトキシンとして働き白血球遊走促進および血管透過性亢進から炎症反応を引き起こすが,TAFIaはこれらのアナフィラトキシンを効率よく不活化し,これらに誘導される好中球活性化抑制により抗炎症作用を発揮する10).オステオポンチンは炎症性サイトカインの一種として循環血液中に,また細胞外マトリックスあるいは血管内皮細胞下マトリックスに存在し,その活性化は炎症組織への単球/マクロファージの走化性亢進に関与する.トロンビンはオステオポンチンを分解しインテグリン発現細胞と相互作用を引き起こすインテグリン結合モチーフをC末端に露出する.TAFIaはここに露出したArg残基を切断しオステオポンチンの炎症反応を抑制する10).
 TMの抗凝固,向(抗)線溶,抗炎症作用を図2,3,4として提示した9)11).

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