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血栓症に関するQ&A PART6

5.血液凝固・線溶系 Q43 宿主RNAと第ⅩⅡ因子の関係をご説明ください

三浦直樹

血栓と循環 Vol.19 No.1, 145-147, 2011

Answer
はじめに

 ヒトのゲノムはわずか1.5%の領域のみが蛋白に翻訳され,残りの大部分はJUNK配列(つまり,ガラクタである)と考えられていた.2010年の暮れに『Science』誌がInsights of the decadeという特集の中で,実際には約80%のゲノムがRNAとして転写され,このRNAがさまざまな細胞機能を調節することを述べている1).実はこれらRNAは細胞内だけでなく,細胞外に放出され血管内に流れ出た際にも血液凝固の調節因子の一員として機能している可能性がある.最初の報告は2005年のNakazawaらによるもので,RNAが第Ⅶ因子活性酵素(Factor Ⅶ-activating protease:FASP)と直接結合し活性化するというものであった2).その後,Preissnerらによって,“RNAと第ⅩⅡ因子と第ⅩⅠ因子の関連”に関する論文が報告された3).

Preissnerらの細胞外RNAと第ⅩⅡ因子・第ⅩⅠ因子に関する研究

1.マウスの血管内皮障害モデルの頸動脈血栓形成にRNAが関与する

 まず,マウスの頸動脈内皮損傷で生じた血栓内にマウス自身のRNAが存在することを証明した.このマウスにRNA分解酵素(RNase)を投与しておくと,血栓が脆弱になり,血管の完全閉塞までの時間が有意に延長した.このモデルでは通常約10分で血管が完全に閉塞するが,RNaseの投与で閉塞までの時間が平均2倍以上も延長された(DNA分解酵素:DNaseは影響しなかった).同じモデルで第ⅩⅡa因子インヒビターの投与では,60分後も血管の完全閉塞には至らず,第ⅩⅡ因子欠損マウスの報告4)を支持する結果となった.これはin vivoでも第ⅩⅡ因子は動脈血栓の成立に重要であることを再確認するものであった.この実験ではin vivoにおける動脈血栓形成にRNAの関与を示唆すると同時にRNaseによるin vivoで抗血栓治療の可能性を示唆している.

2.RNAが血液凝固活性を有し血漿中のセリンプロテアーゼ活性を生じる

 2つ目の実験ではin vitroで一連の血漿凝固実験を行っている.RNAとDNAを血漿に添加することで,カオリン(内因系凝固カスケード惹起物質)添加と同様な凝固を生じること,それぞれRNaseとDNaseで凝固抑制が可能なことを証明した.さらに,(1)CHO細胞のRNA,(2)酵母のtransfer RNA(tRNA),(3)大腸菌のRNA,(4)QβファージのSingle strand RNA(ssRNA),(5)ウイルスのRNA(hepatitis Cとpicornaウイルス)でも同様の結果が得られ,RNAによる血漿凝固がさまざまなRNA分子に共通することを示した(ただし,理由は述べられていないが大腸菌のものは非常に弱い).
 次に,血漿へのRNA添加により血漿中のセリンプロテアーゼ活性が上昇すること,その活性はRNase,第ⅩⅡa因子阻害薬,第ⅩⅠa因子阻害薬とカリクレイン阻害薬によって抑制されるが,トロンビン活性阻害薬では抑制されないことを示した.つまり,RNAの血漿凝固メカニズムは内因系活性化経路の第ⅩⅡ因子や第ⅩⅠ因子の活性化である可能性を導いている.

3.RNAが第ⅩⅡ因子と第ⅩⅠ因子に直接結合しセリンプロテアーゼ活性を生じる

 最後の実験では,Hapatitis CウイルスのRNAを用い,RNAが第ⅩⅡ因子や第ⅩⅠ因子と結合することを証明した.RNAはキニノーゲンとプレカリクレインにも非常に弱く結合したが,その他の凝固関連蛋白質(第Ⅸ因子,第Ⅹ因子,プロトロンビン,フィブリノーゲン)には結合しなかった.
 さらに,RNAを第ⅩⅡ因子と第ⅩⅠ因子と同時に混和することでセリンプロテアーゼ活性が生じること,同様に第ⅩⅡ因子,キニノーゲンとプレカリクレインの混和することにより,それぞれとの単独混和でほとんど示さなかったセリンプロテアーゼ活性を最大40倍も生じることを証明した.
 この論文は,宿主RNAは第ⅩⅡ因子と第ⅩⅠ因子に直接結合し(Preissnerは細胞外RNAをnatural foreign surfaceと記している)血液凝固を惹起する生体内由来の内因系カスケード刺激分子であることを示している.第ⅩⅡ因子は接触相凝固因子と呼ばれるが,その活性化物質は“表面がネガティブチャージ:つまりマイナスに帯電している”ことが共通している.RNAもマイナスに帯電しており,第ⅩⅡ因子と第ⅩⅠ因子と直接結合し活性化させることは合理的であるかもしれない.
 また,最近,治療用の核酸アプタマー(ターゲットとする蛋白質と特異的に結合するDNAやRNA断片のこと)で一本鎖アプタマーが第ⅩⅡ因子を活性化することが報告された5).Preissnerの研究を支持する結果であると同時に,今後の核酸アプタマーの治療では血液凝固にも注意が必要であることを示している.

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