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血栓症に関するQ&A PART6

5.血液凝固・線溶系 Q41 血液凝固能の加齢性変化について教えてください

赤坂喜清

血栓と循環 Vol.19 No.1, 141-142, 2011

Answer
凝固系蛋白の加齢性変化

 加齢に伴う動脈血栓塞栓症の罹患率増加は,血液凝固系の加齢性変化に関連していると考えられている1).表1に示すように老人において血液凝固系の変化は明らかであり,血液凝固能は健常者では加齢とともに増強することが判明している.加齢に伴う血栓形成の危険因子としてはフィブリノゲン,第Ⅴ因子,第Ⅶ因子,第Ⅷ因子,第Ⅸ因子や高分子キニノーゲン・プレカリクレインの増加が報告されている.フィブリノゲンは18~85歳まで増加することが示されており,10歳ごとに10mg/dL増加するとされている.

このメカニズムは明らかでないが,フィブリノゲン自体が凝血基質であるので,その増加は血栓形成の大きな原因となっている.第Ⅶ因子は独立した危険因子として報告されたが,その後の報告では一致した見解が得られていない.その1つの理由としては活性化した第Ⅶ因子,第Ⅶ因子関連酵素,第Ⅶ因子関連蛋白量,Tissue factor pathway inhibitor(TFPI)が加齢とともに増加しているので,これらの活性化した第Ⅶ因子の関連物質の増加が生体内でのThrombin形成の増加を促進し,老人のある状態での血栓形成の危険因子となっていると考えられている.また一方では凝固酵素の活性増加が明らかとなっている.さらにThrombin前駆体の活性化の半減期を測定すると,加齢とともに血清中で活性化した凝固酵素の上昇が判明している.同様に活性化した第Ⅶ因子,第Ⅹ因子活性化蛋白,第Ⅸ因子活性化蛋白,Prothrombin fragment 1+2,Thrombin-antithrombin(TAT)複合体とFibrinopeptide A(FPA)の濃度が老人で増加していることが判明した.実際Prothrombin fragment 1+2,Thrombin-antithrombin(TAT)複合体とD-dimerの血清濃度が加齢で増加していることを計測されている.またvon Willebrand因子も血液型にかかわらず加齢で増加していることも報告されている.最後に第Ⅸ因子や第ⅩⅢ因子が加齢に伴い増加しているが,第Ⅹ因子やProthrombinは増加していない.最近加齢による第Ⅸ因子増加の分子機構が解明されてきた2).その1つを紹介すると,第Ⅸ因子は肝臓で合成され循環血中に放出される糖蛋白であり,マウス肝臓では第Ⅸ因子mRNAは年齢依存的に発現増加し,血中での活性は年齢依存的に増強している.最近ではこの年齢依存的なmRNA発現増加のメカニズムが明らかにされている.この年齢依存的なmRNAの発現増加には第Ⅸ因子遺伝子の5’側に存在する“Age-related stability element(ASE)”と3’側に存在する“Age-related increase element(AIE)”との協調性が必要であることが判明している.したがって第Ⅸ因子遺伝子の発現量はASEとAIEの協調のもとに生後,加齢とともに上昇することが推測される.これ以外の血液凝固因子も第Ⅹ因子と同じく加齢による遺伝子発現の制御機構を受けていると推測されるが,その分子メカニズムは不明であり現在解析が進んでいる.

血小板機能の加齢性変化

 血小板粘着能に関して加齢に伴いβ-thromboglobulinやThromboxane A2の増加が報告されており,これらの因子の関与も示唆されている.この血小板の粘着能変化は血小板膜の組成変化,すなわち脂質成分の変化が関与していると考えられる.特にコレステロールとリン脂質の比の増加やリノール酸の減少が血小板膜の柔軟性に大きな影響を与えていると考えられている.さらに血小板プロスタサイクリンやThromboxane A2の受容体の発現性が加齢と共に減少していることが報告されている.また加齢により線維素溶解能の活性不全が誘導されるのはおそらく,活性化Plasminogen阻害因子の増加に起因すると考えられている.しかしながら,多くの実験的・臨床的検査データから内皮細胞が血液凝固系の変化に大きな影響を与えていると考えられている.

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