血栓症に関するQ&A PART6
5.血液凝固・線溶系 Q40 ワルファリン療法の血液凝固モニターには問題点があるのでしょうか
血栓と循環 Vol.19 No.1, 138-140, 2011
Answer
はじめに
ワルファリンはさまざまな血栓症に用いられるが,血中濃度が治療域に達しないと無効であり,治療域を超えると出血性合併症が増加する.しかし,その用量には著しい個人差,人種差があり,またさまざまな薬物,食品との相互作用も存在するため,抗凝固の効果と出血リスクについては定期的なモニタリングが必要である.本稿では,ワルファリンの抗凝固モニタリング法として現在広く用いられている検査法と,その問題点を概説する.
ワルファリンの薬効
血液凝固因子Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹの合成には,そのアミノ末端部のグルタミン酸のγ-カルボキシル化が必須であり,ビタミンKはそのカルボキシル基供与体として働く.ワルファリンは,主に消化管から吸収され,ビタミンK代謝主要酵素であるvitamin K1 2.3-epoxide reductase(VKOR)を阻害する機序でビタミンK依存的な凝固因子の合成を阻害し,抗凝固効果を発揮する.VKORの感受性規定因子の1つとしてVKORC1の遺伝子多型があり,遺伝子型によってワルファリン必要量が増加するタイプと減少するタイプがある.
また,ワルファリンは肝臓において薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)系により酸化,不活化される.ワルファリン中には2つの光学異性体が等量ずつ含まれているが,特にS体が抗凝固活性の大部分を担っており,主にCYP2C9により代謝される.CYP2C9にもさまざまな遺伝子多型の存在が知られており,これらがワルファリン代謝に影響を及ぼすとされている.
このように,ワルファリン効果の個人差,人種差には,ワルファリン代謝酵素活性とワルファリン関連酵素感受性の相違が関連すると考えられる1)-3).
抗凝固モニタリングの種類
凝固検査法には,トロンボテスト(TT)やプロトロンビン時間(PT)が用いられている.これらは,被検者のクエン酸加ナトリウム全血あるいは血漿に,組織因子(第Ⅲ因子),Ca2+からなる生物製剤(試薬)を添加し,凝固するまでの時間を測定することにより凝固活性を測定するものである.本邦では長年TTが用いられてきたが,国際標準としてPT-INR表記法が普及しており,近年は本邦でもPTによるモニタリングが主流となっている4).
1.プロトロンビン時間(PT)
過剰に加えた組織因子と,血漿に存在する第Ⅶ因子の複合体を形成させることにより,第Ⅴ,Ⅹ,Ⅱ因子が順次活性化され,検体中に存在する被検者由来のフィブリノゲン(第Ⅰ因子)がフィブリンとなって凝固するまでの時間を測定する.秒で表す場合と,正常値を100%としてそれとの比を%で表す場合がある.測定の問題点として,PT試薬の力価に差があり,試薬キット間で測定値が異なることが挙げられる.その是正手段として,INR(International normalized ratio:国際標準比)を設定し,検査結果をこれに換算して表記するよう推奨されている5)6).PT測定は,ビタミンK依存性凝固因子である第Ⅱ,Ⅶ,Ⅹ因子のほか,ワルファリン投与による影響を受けない第Ⅰ,Ⅴ因子まで測定値に反映されてしまう,いわば外因系凝固スクリーニング検査法といえる.
記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。
M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。