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血栓症に関するQ&A PART6

4.心臓 Q34 ステント血栓症の発症リスクが発症時期によって異なるのはなぜですか

上妻謙

血栓と循環 Vol.19 No.1, 119-121, 2011

Answer
ステント血栓症の発症メカニズム

 薬剤溶出ステント(drug-eluting stent:DES)が普及するようになり,発症時期の遅いステント血栓症が注目されている.ステント血栓症の時期別の発症リスクの違いを説明するためには,ステント血栓症の発症メカニズムを理解する必要がある.
 冠動脈ステント植え込み術において,突然死や急性冠症候群といった致命的な合併症を生ずるのがステント血栓症である.冠動脈ステントは生体にとって異物であり,血流のうっ滞や出血・脱水など血小板凝集能が亢進する状態が存在すると,血栓がステント部に形成しやすくなる.ステント植え込み後に生じてきた反応性増殖である,新生内膜や血栓予防と血管としての機能を果たすために重要な血管内皮細胞が,ステントを覆って血管壁に取り込んだ形になることによって,ステント血栓症は発生しにくくなるといわれている.この血管の修復に要する期間がステントや患者背景によって異なることが指摘されている.特にDESは長期間を要するため問題となっているわけである.

発症時期によるステント血栓症の分類

 ベアメタルステント(bare metal stent:BMS)の時代から問題となっていたステント血栓症は,主として30日以内の早期のステント血栓症(early stent thrombosis)であり,30日以降は比較的まれとされていた.これが,DESに関しては30日以後の遅発性ステント血栓症(late stent thrombosis:LST),さらに1年以降の超遅発性ステント血栓症(very late stent thrombosis:VLST)がクローズアップされ,これらはARC(Academic Research Consortium)という産官学の国際合同会議によって定義された.特に2006年米国心臓病学会でBASKET late試験において6ヵ月以降の心筋梗塞と死亡のイベントはDESの方がBMSよりも高いと発表されるや,DESのVLSTやLSTが一気に大きな問題点として取り沙汰されるようになり,2006年秋のヨーロッパ心臓病学会においてその話題は一気に盛り上がり,4年経過しても年間0.5%程度の発生がレポートされるなど,世界中で使用を控える動きが見られるようになった.

発症時期によるステント血栓症の発症要因

1.早期ステント血栓症(early stent thrombosis:EST)

 早期ステント血栓症の要因としては,もともとBMS時代からある程度確立しており,DESにおいても同様である.病変および手技背景として挙げられるのが,病変部の解離の残存,長いステント長,ステントオーバーラップ,分岐部病変,そして拡張不十分とされている1).また患者背景として挙げられるのが,急性冠症候群のような緊急PCIで,チエノピリジン系の抗血小板薬の作用が十分になるまでに時間がかかること,病変部に血栓が存在し,血小板凝集能や炎症反応が亢進していることなどが主な要因といわれている(図1).

 さらに無視できない重要なポイントとして挙げられるのが,患者の理解不足や医師の指導不足などによる不適切な抗血小板療法である2).さらに最近ではクロピドグレルのCYPに関連した耐性,作用不足,薬物相互作用についても注目されている3).また,糖尿病患者も患者背景としてリスクが高いと報告されている因子の1つである.

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