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血栓症に関するQ&A PART6

3.脳 Q27 日本人で高血圧を有するラクナ梗塞に抗血小板薬を使う必要があるのでしょうか

橋本洋一郎堀寛子山本文夫伊藤康幸

血栓と循環 Vol.19 No.1, 95-98, 2011

Answer
ラクナ梗塞の成因と発症機序

 NINDSの脳血管障害の分類第Ⅲ版1)で脳梗塞は,(1)発症機序(血栓性,塞栓性,血行力学性),(2)臨床カテゴリー(アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓症,ラクナ梗塞,その他の脳梗塞),(3)病巣(灌流域)による症候に分けられ,その組み合わせで診断を下すことが提唱された.脳梗塞の多彩な病態を捉え,治療方針の決定に有用である.ラクナ梗塞には血栓性と塞栓性の2つの発症機序が存在すると考えられる.
 ラクナ梗塞とは単一の脳内の穿通動脈領域の梗塞を意味し,画像診断で神経症候を説明しうる部位に長径1.5cm未満の小梗塞巣を認めるが,梗塞が小さくて明らかでない場合もある.大きな動脈の閉塞による大きな梗塞の周辺に散在する小病巣はラクナと呼ばないし,血管性のものを指し,他の原因による脳実質病変を意味しない.
 3~7mmのラクナは,lipohyalinosisによる血管閉塞で生じる.これは普通,直径40~200μmの脳動脈の高血圧性変化であり,一方では高血圧性脳出血の原因となりうる.5mm以上の比較的大きいラクナは直径200~800μmの太い穿通動脈内にみられるmicroatheromaによる.また穿通動脈入口部のアテローム(junctional atheroma)でもラクナ梗塞は起こる.この3つの成因は血栓性機序のラクナ梗塞と考えられ,高血圧,糖尿病,喫煙などが危険因子となる.一方,太い動脈(artery-to-artery embolism)や心臓(cardiogenic embolism)に由来する微小塞栓子による閉塞でもラクナ梗塞を来すことがある(塞栓性機序のラクナ梗塞).
 米国でよく使われているTOAST(Trial of Org 10172 in Acute Stroke Treatment)分類は,脳梗塞を(1)large-artery atherosclerosis,(2)cardioembolism,(3)small-artery occlusion(lacune),(4)stroke of other determined etiology,(5)stroke of undetermined etiologyに分類している2).ラクナ梗塞に相当するsmall-vessel occlusionの定義としては,塞栓源心疾患がなく,病変と同側の頭蓋外血管に50%を超える狭窄がないことが必要となっており2),血栓性のラクナ梗塞のみを指している.したがって,大規模臨床試験でsmall-artery occlusionやsmall-vessel occlusionといえば血栓性のラクナ梗塞を指している.

ラクナ梗塞とmicrobleeds

 MRIのT2強調画像で2~5mmほどの低信号域として描出される微小脳出血(microbleeds)が,高血圧を基礎疾患とするラクナ梗塞患者に高頻度で出現することがわかってきた.大脳基底核,視床や橋などに検出されるこの微小出血は脆弱な穿通動脈壁から流出した無症候性の脳出血である.微小出血は脳出血の危険因子となる可能性が指摘されており,ラクナ梗塞の再発予防として抗血小板薬を投与する場合は注意が必要である.特に高血圧が存在する血栓性機序のラクナ梗塞の場合に抗血小板薬を投与するかどうかが問題となる

欧米の臨床試験

 1994年のAntiplatelet Trialist’Collaboration(APT)3)と2002年のAntithrombotic Trialist’Collaboration(ATT)4)のメタ解析で,脳梗塞の再発予防に対する抗血小板療法は確立されたものとなっている.脳梗塞病型別の検討はなされていないが,ATTでは抗血小板薬の脳梗塞再発予防効果は22%と報告されている.薬剤別では,アスピリン23%,チクロピジン32%,アスピリンと徐放性ジピリダモールの合剤は32%である.
 MATCH試験(small-vessel occlusionの患者が50%以上,高血圧例78%)では,3ヵ月以内に脳梗塞あるいは一過性脳虚血発作(TIA)の発症があり,3年以内に危険因子を1つ以上有するハイリスク群を対象として,クロピドグレル単独群とクロピドグレルとアスピリンの併用群を比較したところ,両群間に虚血性イベントの差はなく,併用群で頭蓋内出血が投与3ヵ月以降に有意に増加し,2剤の併用は推奨できない結果であった5).
 ESPRIT試験(small-vesselの患者が50%以上)は,発症6ヵ月以内のTIAまたは軽症脳梗塞を対象にアスピリン単独群(高血圧例59%)とアスピリンと徐放性ジピリダモールの合剤群(高血圧例60%)との比較試験で,合剤群で脳梗塞の再発が少なく,出血や頭痛の発症が多く,さらにアテローム血栓性脳梗塞だけでなくラクナ梗塞にも効果が認められた6).
 アスピリンと徐放性ジピリダモールの合剤群とクロピドグレル単独群の比較試験であるPRoFESS試験(small-artery occlusion:lacune患者が50%以上,高血圧例74%)では,脳卒中の再発に両者とも有効で,両群間に差はなく,一方,合剤群で頭蓋内出血が有意に多いという結果であった7).

わが国の臨床試験

 本邦でラクナ梗塞患者を対象に抗血小板薬投与群と非投与群の比較試験が1994年に報告された8).脳梗塞の再発率は抗血小板薬投与群(チクロピジンまたはアスピリン,または両者の併用,高血圧例70%)で3.4%/年,非投与群(高血圧例61%)では2.9%/年と群間に有意な差は認められなかった8).また,脳出血の発症率については抗血小板薬投与群で0.8%/年,非投与群で0.4%/年と有意差はなかったものの,抗血小板薬投与群で倍の脳出血を来していた8).このようにラクナ梗塞に対するチクロピジンもしくはアスピリンの有用性は示されなかった.これは,大変ショッキングな結果で,ラクナ梗塞に対しての抗血小板薬投与が一時的に控えられることになった.
 Cilostazol Stroke Prevention Study(CSPS,1034例,2000年)試験では,脳梗塞患者を対象にシロスタゾールとプラセボとの比較(ラクナ梗塞患者が75%,高血圧例60%と61%)が行われ,シロスタゾール群は脳梗塞の再発を有意に抑制した9)(relative risk reduction 41.7%).頭蓋内出血の発症は,プラセボ群と差がなかった.この結果よりわが国ではラクナ梗塞に対して積極的に抗血小板薬が再び投与され始められた.またCSPSのサブ解析では,シロスタゾール群はラクナ梗塞で再発予防効果が高く,糖尿病や高血圧などの高リスク症例で効果的であることが示された10).
 シロスタゾールとアスピリンの比較試験であるCSPSⅡ(2672例,ラクナ梗塞患者65%,アテローム血栓性脳梗塞患者32%,高血圧例73%と74%,2010年)では,脳卒中(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血)の発症が,シロスタゾール群で有意に少なかった11).脳梗塞再発では有意差がなかったが,出血イベントが有意にシロスタゾールで少なかった.サブ解析では,ラクナ梗塞において出血性脳卒中の発症が有意に抑制されていた.
 なお,わが国でも抗血小板薬の併用で頭蓋内出血が増加することが報告(BAT研究)されており12),ラクナ梗塞の再発予防においても可能な限り単剤とすべきである.

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