血栓症に関するQ&A PART6
3.脳 Q26 心原性脳塞栓の再発予防にワルファリンと抗血小板薬の併用は有用でしょうか
血栓と循環 Vol.19 No.1, 92-94, 2011
Answer
ワルファリン単独療法が原則
脳卒中またはTIAの既往がある非弁膜性心房細動患者に対するワルファリン単独療法の大出血リスクは年間1.5%であるが,ワルファリンと抗血小板薬の併用療法では年間4.95%と有意に高く(p<0.004),しかも虚血イベントの有意な減少のないことがSPORTIF(the Stroke Prevention using an ORal Thrombin inhibitor in Atrial Fibrillation)試験で示されている1).また種々の塞栓源心疾患をもつ症例におけるメタ解析2)でも,併用療法で出血性合併症が有意に増加することが示されている.このように,ワルファリン単独療法に抗血小板薬を追加することで出血性イベントが増加するという明確な証拠がある一方,再発防止効果が向上するという証拠は存在しない.したがって心原性脳塞栓症再発防止は,原則的にワルファリン単剤で行うことが望ましい.ただし,適切な抗凝固療法を行っていたにもかかわらず虚血イベントを再発する場合には抗血小板薬の追加が考慮されうる3-5).
リスクの層別化
適切なワルファリン単独療法にもかかわらず塞栓症を再発した場合の抗血小板薬追加に関する明確な指針はないため,個々の症例で予防効果が出血リスクを上回るか否かを慎重に判断して決定する必要がある.出血リスクの層別化には,欧州の心房細動治療ガイドラインが推奨しているHAS-BLEDスコアが参考となる(表1) 6).
HAS-BLEDスコア3以上では抗凝固療法による年間出血リスク(頭蓋内出血,入院を要する出血または2g/L以上のHb低下あるいは輸血を要するようなHbの低下)が高く注意を要するとされる.塞栓症再発リスクは基礎疾患により異なるため,塞栓源心疾患の評価が重要となる.リウマチ性僧帽弁膜症や機械弁置換患者の塞栓症リスクは高い.感染性心内膜炎による脳塞栓症では感染性脳動脈瘤を形成しやすく,原疾患未治療の段階では脳出血のリスクが高い.また心エコー図検査などによる心腔内血栓の証明,血栓性素因の存在なども併用療法の選択を考慮する上で参考となる.心房細動のリスク層別化には,わが国のガイドラインを含めCHADS2スコア(表2)が広く用いられている.
この方法では6割以上が中リスク群に分類されること,低リスクが真の低リスクとならないことなどの理由から,これを改良したCHA2D2-Vascスコア(表3)も最近用いられており参考となる.
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。