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血栓症に関するQ&A PART6

3.脳 Q24 降圧により脳出血に加え脳梗塞も減少する理由はなんでしょうか

土肥栄祐細見直永松本昌泰

血栓と循環 Vol.19 No.1, 85-89, 2011

Answer
はじめに

 わが国における脳卒中(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血)による死亡者は年間約13万人で,死亡原因の第3位を占めており,脳卒中罹患者数は272万人と推定されている.また,脳卒中は寝たきりの最大の原因でもあり,高齢化の進行に伴い患者数はますます増加していくと考えられる.特に脳梗塞は脳卒中全体の3/4を占める疾患であり,いったん発症すると永続的な後遺症が残存する可能性も高いことから,その発症予防を確立していくことが極めて重要である.脳梗塞発症の危険因子としては高血圧,糖尿病,脂質異常症,心房細動,喫煙,慢性腎臓病など多くの要因がある.ここでは最大の危険因子である高血圧に関して述べる.

一次予防における血圧値と脳血管疾患発症との関係

 多くの疫学研究から高血圧は脳卒中の最大の危険因子であることが明らかになっており1),日本の一般住民を対象とした久山町研究でも脳梗塞の発症率は140/80mmHg以上から,脳出血は120/80mmHg以上から有意に増加することが示されている.脳卒中全体でみると,降圧治療により拡張期血圧を5mmHg,7.5mmHg,10mmHg低下させるとそれぞれ脳卒中発症の相対危険度が34%,46%,56%減少することが確認されている2).また高血圧は,脳梗塞では特にアテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞発症の最大の危険因子であり,これらの発症が降圧療法により抑制できることは各種の大規模臨床試験により確認されている.14件の降圧薬の介入試験をメタアナリシスにより解析した成績によれば,3~5年間の5~6mmHgの拡張期血圧の下降により脳卒中の発症率は42%減少するとされており,また高齢者の収縮期高血圧の治療により脳卒中の発症率は30%減少することも報告されている.

脳梗塞の二次予防における高血圧

 脳出血に比べて脳梗塞の二次予防においては,まず抗血小板薬や抗凝固療法を考えがちであるが,血圧が高いままにこれらが投与されると頭蓋内出血のリスクが増大することが知られ,脳梗塞の二次予防は『まず降圧ありき』である.また,『降圧のみで脳梗塞予防効果がある』ことも念頭に置くべきである.
 メタアナリシスによる研究では,血圧レベルと脳卒中再発との関連は直線的で収縮期血圧が10mmHg,拡張期血圧が5mmHg下がると,脳血管障害の発症はそれぞれ28%,34%減少したと報告されている3).アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)を中心とした脳卒中の再発予防試験であるPROGRESS研究では脳卒中の二次予防において降圧療法の有用性が初めて示され,そのサブ解析では,実薬群で虚血性脳卒中に対して24%,脳出血に対しても50%の相対リスクの低減効果が認められた.さらに脳梗塞のタイプ別でも,ラクナ梗塞が23%,心原生脳塞栓23%,アテローム血栓性脳梗塞39%といずれのタイプの脳梗塞でもリスク低減効果が認められた4).

脳梗塞の各病型と高血圧の関連

 脳梗塞は脳卒中の3/4を占める極めて重要な疾患であり,発症機序により大きく3つに分類される.それぞれの病型と高血圧の関連を考察する.

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