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血栓症に関するQ&A PART6

3.脳 Q23 t-PA静注療法のtime windowの延長(4.5hまで)について教えてください

棚橋紀夫

血栓と循環 Vol.19 No.1, 82-84, 2011

Answer
血栓溶解療法(アルテプラーゼ静注療法)のtime windowの変遷

 t-PA静注療法(アルテプラーゼ0.6mg/kg)は,発症3時間以内の脳梗塞症例を対象としているが,現在最も期待できる治療法である.本邦でも2005年10月にt-PA静注療法が認可されて以来,年間7,000例に使用されている.脳梗塞のあらゆる臨床病型に適応となる.本邦の『脳卒中治療ガイドライン2009』1)でもグレードAで推奨されている.欧米においては1995年より使用されているが投与量は0.9mg/kgであり,本邦での投与量0.6mg/kgより多い.本邦での7,000例以上の市販後調査成績2)も昨年報告され,90日後のmRS 0-1(good recovery)が33%, mRS 6(死亡)が17%であった.3ヵ月後以内の症候性頭蓋内出血も4.4%であった.しかし,本邦でのt-PA使用頻度は,全脳梗塞発症患者の5%以下と少ない.適応となる患者が少ない理由の1つとしてtime windowが3h以内と短いことが挙げられる.2004年には,ATLANTIS,ECASS, NINDS rt-PA stroke trialの統合解析3)が行われ,t-PAの効果は発症後早ければ早いほどよく,特に90分以内がよいこと,さらに3時間を超す症例でも効果が期待できることが示された.
 その後ECASS Ⅲ4)では,発症後3~4.5時間の脳梗塞患者を対象にアルテプラーゼ(0.9mg/kg)群とプラセボ群で無作為化比較試験が行われ,良好な結果(mRS 0,1)が有意にプラセボ群を上回った(52.4% vs 45.2%).ただし症候性脳出血はアルテプラーゼ群2.4%,プラセボ群0.2%でアルテプラーゼ群が有意に多かった.また,ヨーロッパでのSITS-ISTRで登録されたデータ5)では,t-PA静注療法を発症3h以内(11,865例)と3~4.5h(664例)で比較すると治療成績の差はなく,症候性脳出血も有意差を認めなかった.また,EPITHET 6)では,発症3~6時間の患者でperfusion weighted MRI(PWI)とdiffusion weighted MRI(DWI)のミスマッチ(PWIで示される灌流低下領域がDWIで示される梗塞領域よりも20%以上大きい)がある場合を対象とし,アルテプラーゼ投与群とプラセボ群を比較した.その結果,アルテプラーゼ群では再潅流がより多くみられ,梗塞巣の増大がより少なく,機能回復も有意に良かった.
 これらのデータを基にAHA/ASAでも2009年,t-PA静注療法のtime windowを4.5h以内とした7).ただし,3~4.5hでt-PA静注療法を行う場合の除外基準として(1)80歳を超す場合(2)INR<の経口抗凝固薬を服用している場合(3)NIHSS score>25(4)脳卒中の既往のある糖尿病患者,を示した.

 図1にECASS,ATLANTIS,NINDS,EPITHET試験の最新統合解析8)により得られた脳卒中に対するアルテプラーゼ静注療法開始までの時間と転帰を示す.
 現在,本邦ではtime window は3時間以内であり,4.5hまでの延長は認められていない.

Time window延長の問題点

 図1に示された統合解析の結果にも示されるように,time windowは4.5hまで延長されたとはいえ,270分(4.5h)を超えると転帰改善効果はみられなくなる.

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