血栓症に関するQ&A PART6
2.検査・診断 Q21 脳血栓塞栓症のリスク評価における頸動脈プラークイメージングの意義とはどのようなことですか
血栓と循環 Vol.19 No.1, 76-77, 2011
Answer
はじめに
脳虚血の原因は脳内小動脈の閉塞によるラクナ梗塞,主幹動脈の動脈硬化が原因となるアテーローム血栓性梗塞(atherothrombotic brain infarction:ATBI),心原性塞栓症に大別され,それぞれ大まかに1/3ずつを占める1).ATBIは頸部動脈から頭蓋内主幹動脈までの動脈硬化性病変によるものを含むが,その中で最も重要な病巣は頸動脈分岐部(内頸動脈起始部)の粥腫(プラーク)にある2).頸動脈分岐部はこのように脳血栓塞栓症において重要な位置を占めるのみならず,人体中で最も観察しやすい動脈である.すなわち,頸動脈分岐部は体表近くにあるので,エコーによる観察が容易であり,MRIにおいても高精細画像を得やすいという利点がある.さらに頸動脈分岐部の病変は外科的治療の対象にもなるので,その形態や性状を詳細に検討する意義がある.また,頸動脈は全身の動脈硬化の指標としても用いられている.
頸動脈画像診断法に求められる情報
脳血栓塞栓症のリスク評価に関わる画像診断情報は,内腔の狭窄率とプラーク性状診断の両面がある.内腔の狭窄率は早くから重要な因子として認識され,症候性頸動脈狭窄症に対する頸動脈内膜剥離術(CEA)の適応は,狭窄率をもとに分類される.大規模臨床試験により,脳虚血の再発予防として周術期合併症の少ない施設では70~99%の狭窄率ではCEA(Carotid endarterectomy)が内科治療より優れており,50~69%ではCEAの優位性は軽度であるので,CEAを行うかどうかは慎重に検討されねばならず,50%未満ではCEAの適応はないということが示された3).しかし,中等度あるいは軽度の狭窄も脳梗塞の原因となることも明らかであり3)4),脳梗塞を発症する危険性は狭窄率のみでは決まらない.それゆえ不安定プラーク(脳梗塞を発症する危険性の高いプラーク)を描出する画像診断法が求められている.さらに,最近では頸動脈狭窄部にステントを挿入する治療(carotid angioplasty and stenting:CAS)も広く行われており,ステント挿入時に脳虚血を引き起こす危険性の予測も望まれている.以上のように,脳血栓塞栓症のリスク評価における頸動脈プラークイメージングの重要性は増しつつある.DSAは頸動脈狭窄の評価のみを目的としては行われなくなりつつある.
各手法の特徴と得られる情報
1.エコー
通常臨床的にまず行われる検査はエコーである.エコーは他の方法(DSA, CT, MRI)に比して簡便であるのみならず,高い空間時間分解能を有し,内腔の狭窄率,流速,プラークの大きさや性状について実時間で観察できる.エコーは比較的早期の病変において特に有用性が高く,内中膜複合体厚(intima-media thickness:IMT)は加齢とともに増大し,高血圧,糖尿病,喫煙などの動脈硬化の危険因子の存在や,脳卒中,冠動脈疾患閉塞性動脈硬化症の既往と正の相関を示す.進行性病変においてプラークは低輝度(出血,粥腫),高輝度(線維性組織),音響陰影を伴う高輝度(石灰化)に大別される.一般に低輝度のプラークは軟らかく,脳虚血の危険性が高い傾向がある5)6).エコーはプラークの可動性から不安定性を推定することも可能である.また高度狭窄はドップラー法での流速測定により評価される.しかしながら,エコーにも,表面に強い石灰化があると音響陰影により深部の評価が困難になる,視野が限られ形態情報の客観性に劣るといった弱点がある.
2.CT
頸動脈プラークに対して外科的治療を検討する場合にはCTが必須である(図1).
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