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血栓症に関するQ&A PART6

2.検査・診断 Q20 動脈血栓症の病態診断におけるADAMTS13測定の意義は何でしょうか

八木秀男藤村吉博

血栓と循環 Vol.19 No.1, 73-75, 2011

Answer
血栓症の発症機序

 生体は血液を全身の血管に循環させることにより生命活動を維持しているが,いったん何らかの原因により血管が損傷し,出血した場合には血液が直ちに凝固することによりその喪失を防いでいる.この生命を維持する重要な機構が止血であり,血管内皮細胞,血小板,凝固因子,ならびに線溶因子などが協調することによりその役割を果たしている.しかし,それぞれの欠乏もしくは機能異常により血管内で血液凝固が生じ,血栓が形成される.先天性血栓症は抗血栓性因子の先天的な欠損もしくはその機能異常が原因と考えられるが,実際には他の抗血栓性因子がその機能を補完することから,血栓症を誘発することが確認されている血栓性素因は極めて少数で,本邦ではアンチトロンビン,プロテインC,そしてプロテインSの欠乏症並びに異常症(分子異常)とフィブリノゲンならびにプラスミノゲンの異常症がそれに挙げられる.血栓は主に静脈血栓であり,その発生部位としては深部静脈が最も多く,その結果,肺血栓塞栓症の合併も多く認められる.さらに下大静脈,腸管膜静脈,脳矢状静脈洞などの血栓が比較的稀な部位に生ずることや経口避妊薬の内服,妊娠・分娩,感染症,低侵襲の手術,外傷などの軽微な誘因でも発症する.さらに動脈血栓症を来す先天性疾患としてUpshaw-Schulman症候群(USS)が挙げられる1).一方,後天性血栓症ではその発症に複数の要因が関わっており,その診断は容易ではない.その中で動脈性血栓症を来す疾患としては血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP),溶血性尿毒素症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS),抗リン脂質抗体症候群(antiphosholipid syndrome:APS),ヘパリン起因性血小板減少症(heparin induced thrombocytopenia:HIT)が重要であり,その鑑別診断には病態ならびに各種検査にて鑑別が可能となっている(図1).

その中でもADAMTS13の測定はTTPの確定診断のみならず動脈血栓症の病態把握に重要であることが最近の研究結果により明らかとなっている.

ADAMTS13と動脈血栓症

 フォンビルブランド因子(von Willebrand factor:VWF)は血管内皮細胞や骨髄巨核球で産生される止血因子であり,2050アミノ酸残基からなる単一サブユニットがジスルフィド結合によりN末端同士,C末端同士の様式で多数結合した多重体(マルチマー)構造を持ち,その止血機能は高分子量であるほど強いのがその特徴である.基本となるVWFサブユニット上には凝固第Ⅷ因子結合ドメイン,コラゲン結合ドメイン,そして二種類の血小板結合ドメインが存在することから,血中で凝固第Ⅷ因子の「キャリアー蛋白質」として働くとともに,障害血管壁ではその修復機転である血小板粘着反応における「分子糊」としての機能を担っている.つまり血液凝固第Ⅷ因子と結合してⅧ/VWF複合体を形成し,第Ⅷ因子を安定化するとともに血小板血栓部位への凝固血栓形成を誘導する作用と傷害血管内皮細胞下結合組織に血小板を粘着させ,血小板血栓形成を促す作用を有する.このVWFを基質として特異的に分解する酵素であるADAMTS13活性が著減している代表的疾患であるTTPでは全身の細小動脈に血小板を主体とする微小血栓の形成により,溶血性貧血,消耗性血小板減少による出血傾向および循環障害による臓器障害が引き起こされている2).実際にTTP患者では正常ヒト血漿中に存在する高分子量von Willebrand 因子重合体(large VWF multimers:LVWFM)よりはるかに分子量の大きな超高分子量VWF重合体(unusually large-VWF multimers:UL-VWFM)が検出されている3).つまり血管内皮細胞で産生・重合したUL-VWFMは,血中に放出される際に血管内皮細胞表面に結合しているADAMTS13によってすぐに分解され,低分子化されるが,TTP患者ではADAMTS13酵素活性が著減しているために,分解されないUL-VWFMはそのまま循環血中に存在し,細小血管内に生ずるずり応力によって非活性型の球形構造から活性型の伸展構造に変化すると,容易に血小板表面に存在するVWFのレセプターであるGPⅠbを介して血小板と結合し,引き続いて生ずる細胞内シグナル伝達により血小板が活性化され,堅固な血小板凝集塊が形成される.そして形成された血小板凝集塊は微小動脈血栓として血管を狭小化するため,そこを通過する際に赤血球が破砕され,溶血性貧血が引き起こされると考えられている4).このことから動脈血栓症を認める患者ではADAMTS13の測定が必要であり,ADAMTS13活性が著減(3%以下)しておればTTPと診断され,抗ADAMTS13抗体の有無により先天性もしくは後天性の鑑別が可能である5).そして後天性についてはその発症様式からインヒビター産生による特発性と,膠原病,悪性疾患,造血幹細胞移植,妊娠,薬物やウイルス感染症などの基礎疾患に合併する二次性とに分類される.治療の選択基準としてはUSSに代表されるADAMTS13活性が著減するも,インヒビターがない病態ではADAMTS13の補充を目的とした新鮮凍結血漿(FFP)の投与が有効である.一方,後天性TTPに代表されるインヒビターによってADAMTS13活性が著減する病態では血漿交換療法とステロイドパルス療法もしくはプレドニゾロン(初期量1mg/kg)投与が必要である6).そして,このような病態における補充を目的とした血小板輸血は却って血小板血栓形成を促進し,動脈血栓症を助長するため活動性出血の止血目的以外は控えるべきである.一方,二次性TTPのうち妊娠,薬物(特にチクロピジン)によるものはインヒビター陽性でADAMTS13活性が著減していることからその治療方針は後天性特発性TTPと同様であるが,膠原病関連7)では全体としてADAMTS13活性はそのほぼ半数が25%以下に低下し,3%以下の著減例は約20%であった.そしてインヒビターの陽性率は約60%であった.これらの結果から膠原病関連ではその半数に血漿交換や免疫抑制療法が有効であり,特にSLEでは後天性特発性TTPに準じた血漿交換療法並びに免疫抑制剤投与の併用が推奨されることが判明した.一方,造血幹細胞移植関連8)でもADAMTS13活性はその半数で25%以下に低下するも,3%以下の著減例は認められず,インヒビターもそのほとんどが陰性である.つまり,その病態は移植前処置や免疫抑制剤による血管内皮細胞傷害がその主体であるため前処置の軽減や血管内皮細胞機能を保護する治療法の確立が必要と考えられる.

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