Answer 血栓症の発症機序  生体は血液を全身の血管に循環させることにより生命活動を維持しているが,いったん何らかの原因により血管が損傷し,出血した場合には血液が直ちに凝固することによりその喪失を防いでいる.この生命を維持する重要な機構が止血であり,血管内皮細胞,血小板,凝固因子,ならびに線溶因子などが協調することによりその役割を果たしている.しかし,それぞれの欠乏もしくは機能異常により血管内で血液凝固が生じ,血栓が形成される.先天性血栓症は抗血栓性因子の先天的な欠損もしくはその機能異常が原因と考えられるが,実際には他の抗血栓性因子がその機能を補完することから,血栓症を誘発することが確認されている血栓性素因は極めて少数で,本邦ではアンチトロンビン,プロテインC,そしてプロテインSの欠乏症並びに異常症(分子異常)とフィブリノゲンならびにプラスミノゲンの異常症がそれに挙げられる.血栓は主に静脈血栓であり,その発生部位としては深部静脈が最も多く,その結果,肺血栓塞栓症の合併も多く認められる.さらに下大静脈,腸管膜静脈,脳矢状静脈洞などの血栓が比較的稀な部位に生ずることや経口避妊薬の内服,妊娠・分娩,感染症,低侵襲の手術,外傷などの軽微な誘因でも発症する.さらに動脈血栓症を来す先天性疾患としてUpshaw-Schulman症候群(USS)が挙げられる1).一方,後天性血栓症ではその発症に複数の要因が関わっており,その診断は容易ではない.その中で動脈性血栓症を来す疾患としては血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP),溶血性尿毒素症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS),抗リン脂質抗体症候群(antiphosholipid syndrome:APS),ヘパリン起因性血小板減少症(heparin induced thrombocytopenia:HIT)が重要であり,その鑑別診断には病態ならびに各種検査にて鑑別が可能となっている(図1).