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血栓症に関するQ&A PART6

2.検査・診断 Q18 高感度CRPは血管炎症のマーカーとして使用されていますが,血栓症の発生にどのように作用しているのですか

伊澤淳池田宇一

血栓と循環 Vol.19 No.1, 67-70, 2011

Answer
バイオマーカーとしてのCRP

 動脈硬化のメカニズムは,血管内皮傷害を発端とする炎症であるとする概念が広く知られている.その炎症を反映する高感度CRP(hs-CRP)は,前向き大規模臨床試験や疫学研究によって,冠動脈疾患,脳卒中や末梢動脈疾患などの独立危険因子であることが示され,動脈硬化性疾患の発症や予後が予測できるバイオマーカーの1つとされている1)2).
 炎症と血栓形成には密接な関連があり,hs-CRPと同じく重要なバイオマーカーとされているのが,血漿粘度の規定因子の1つであり血小板凝集や血管内皮傷害に作用するフィブリノゲンである.最近の臨床研究により,hs-CRP値とフィブリノゲン値がともに頸動脈内膜中膜厚と正の相関を示すことが明らかとされている3).しかし,炎症反応と血栓性素因は互いの増悪因子となるため,生体内ではどちらが先に起因となるか判別は難しいことが多い.さらにCRPなどのマーカーは単に病態の指標であるのか,あるいは実際に生体内で作用して病態の原因になるのか,などについて議論が続いている4).

動脈硬化の進展におけるCRPの作用

 CRPは細胞表面の受容体CD32(FcγRⅡ)に結合することにより作用する5).CRPとCD32がともに動脈硬化プラークのマクロファージに確認されたことから,動脈硬化プラークの形成や炎症を促進するCRPの直接作用が示唆された6).CRPはLDLコレステロールとともに単球の表面上の受容体CD32と結合すると,それぞれが単球内に移行する7).CRPとLDLコレステロールが細胞内に取り込まれた単球は活性化し,細胞接着分子の発現,補体の活性化,さらに血栓形成に重要な組織因子の発現などを来すことが報告されている6).活性化した単球が動脈壁内に浸潤するとマクロファージとなり,動脈硬化プラークの形成に重要であることは,すでに明らかである.
 ヒト血管内皮細胞の培養系においてCRPの投与は接着分子VCAM-1,ICAM-1,E-セレクチンの発現を誘導し8),ケモカインMCP-1の発現を誘導すること,そして単球を活性化し内皮細胞上への接着を促進すること9)が示されている.これらの接着分子の発現は核内因子κB(NF-κB)を介すること10)11),またVCAM-1の発現増強はCD32を介することが報告されている10).さらに不安定狭心症患者のうち,血中CRP値が高値(>3mg/L)の例ではNF-κBの活性化が顕著であり,NF-κBの活性化を認める症例では急性冠症候群の再発率が高く,そしてヒト単球においてもCRPの刺激によりNF-κBが活性化することなどから,生体内におけるCRPと転写因子NF-κBとの密接な関連が示唆される12).
 この他にもCRPはヒト血管内皮細胞や単球においてMMP(matrix metalloproteinase)-1,MMP-10,MMP-9を誘導することが示されている13)14).MMPの作用などによりプラークが不安定化して破綻すると,急速に血栓が形成され急性冠症候群の発症に至ることが知られている.

血小板凝集におけるCRPの直接作用

 CRPの添加によって血小板凝集能が亢進することが報告されてきた.その後の基礎的研究ではCRPの直接作用として,内皮細胞上のP-セレクチン発現の誘導,そして血小板の凝集抑制作用のあるプロスタサイクリン(PGI2)の産生抑制などが報告されている.さらに急性心筋梗塞症例では,血中CRP値と末梢血単球のcyclooxygenase-2(COX-2)発現が正の相関を示し,CRPがアラキドン酸カスケードを介して血小板を活性化する可能性が示唆されている15).さらに健常人にCRPを静脈内投与したところ,フォンウィルブラント因子,プロトロンビン,Dダイマーが上昇したとの報告があり16),血小板凝集や凝固系に対するCRPの直接作用を強く示唆している.
 CRPは5量体として存在するが,5量体に比べて分離した単量体CRPがより強力な直接作用を有するとの報告17)がある一方,単量体CRPは血管内皮細胞に保護的であるとする研究18)もあり意見が分かれている.

血液凝固,血栓形成におけるCRPの直接作用

 CRPと血中Dダイマー値が相関することが示されており,CRPの血栓形成に対する直接作用について基礎的研究が進展している.Chen Cらは,CRPの投与によりヒト冠動脈内皮細胞のトロンボモジュリンと内皮プロテインC受容体の発現が減少することを示した19).これはCRPによる血栓形成の促進作用の1つである可能性があり,一部はCD32を介することも示されている.さらに彼らは,血管内皮細胞の培養系においてCRPがプラスミノゲン活性化因子インヒビター1(plasminogen activator inhibitor-1:PAI-1)のmRNA発現を促進し,培養上清中のPAI-1の蛋白量と酵素活性が上昇することも示した20).また,この作用はCD32および酸化ストレスを介することも示されている.また,ラットの実験系ではCRPを腹腔内投与(20mg/kg)すると,腹腔内マクロファージからスーパーオキシドアニオンが放出され,続いてNF-κBを介して組織因子が活性化することが示されている21).これらの報告はCRPが血栓形成に直接関与する可能性を支持している.

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