血栓症に関するQ&A PART6
2.検査・診断 Q16 血小板機能検査のPOCT(point-of-care testing)についていくつかご紹介ください
血栓と循環 Vol.19 No.1, 63-64, 2011
Answer
はじめに
血小板は動脈血栓形成における主役であり,その機能を抑制する抗血小板薬の有用性は多くの大規模臨床試験により示されている.しかし抗血小板薬の血小板機能抑制効果の個体差は大きく,アスピリンやクロピドグレルに対する低反応性群においては,抗血小板療法時の心血管イベントの発症率が高いことも多くの報告により示されている.抗血小板薬の血小板機能抑制効果の個体差が臨床予後に関連するという概念の定着が高まっている背景において,抗血小板薬モニタリングの必要性が唱えられている1)-3).
血小板の機能調節機構に関与する経路や因子は数多く存在するため,抗血小板薬の作用機序も単一ではなく,抗血小板薬はその薬剤ごとに血小板活性化を制御する種々の作用点で働いている.主な抗血小板薬であるアスピリンはアラキドン酸代謝におけるシクロオキシゲナーゼを阻害し,血小板内でのトロンボキサン合成を阻害し,血小板の機能を抑制する.また,クロピドグレルは血小板機能亢進に働くADPの受容体P2Y12の阻害薬である.薬剤ごとにユニークな作用機序を有する抗血小板薬のモニタリングに用いる血小板機能の検査法を統一することは難しく,薬剤ごとに薬効を評価する検査法が必要であると考えられている.従来行われている血小板機能低下を検討するための血小板機能検査は惹起剤の種類・濃度の選択が可能であり,抗血小板薬の種類により特徴のある血小板機能抑制の検討結果を示すが,手技が煩雑で時間がかかり,さらに標準化が困難なことから現況ではモニタリングに適していないと考えられている.最近ではアスピリンやクロピドグレルのモニタリングに適した機器の開発がめざましく,それらに向けられる期待は大きい.2010年現在,抗血小板薬のモニタリング法に関しては研究の領域を超えていないが,より簡便で再現性の高い,手技や場所を選ばず,臨床予後と関連するPOCT(point-of-care testing)に関するデータの集積が行われている4)5).本稿では,抗血小板薬服用における血小板機能検査のPOCTについて,臨床予後との関連が報告され,臨床有用性が期待されているPlatelet Function Analyzer(PFA)-100とVerifyNowについて概説したい.
PFA-100(コラーゲン・エピネフリン カートリッジ)
PFA-100システムは速い流動状態下で血小板機能が評価できる機器システムであり,出血性疾患のスクリーニング,抗血小板薬の簡易モニターを行うことを目的に開発された.簡易モニター機器としての歴史は10年以上を有し,関連論文数も数多い.日本での入手は現況では容易ではないが,血小板機能検査のPOCTとして臨床予後との関連がmeta-analysisで示された機器であることから本稿にて紹介したい.
PFA-100システムでは,2種類のカートリッジ[1つは惹起剤としてコラーゲンとエピネフリン(CEPI)が,もう1つはコラーゲンとADPが塗布されているもの(CADP)]を用いて血小板機能測定を行う.アスピリンの反応性の個体差を検討するためにはCEPIカートリッジを,クロピドグレルの場合はCADPカートリッジを用いる.全血サンプル(クエン酸採血のサンプルを800μL使用)をそれぞれのカートリッジに入れ,高いずり応力と惹起剤の刺激によりもたらす血栓がカートリッジを閉塞する時間(CT)を測定する.測定時間は5分間で,その閉塞時間が短いほど血小板機能亢進と評価される.この機器は卓上サイズで,検査の手技も全血サンプルをカートリッジに入れる,と極めてシンプルである.本検査は採血後30分~4時間の間に行う.2種類のカートリッジを用いて,それぞれ異なる薬剤の薬効評価を行っているが,臨床的有用性が評価されているのはアスピリン反応性を検討するためのCEPI-CTである.CADP-CTは,クロピドグレルの薬効評価に関する有用性に関しては否定的な論文報告が多い.
血小板機能検査のPOCTを論じる際に最も重要な点は,その検査で評価された血小板機能検査の値が臨床予後に関連するかどうか,である.最近ではPFA-100(CEPI-CT)で評価されたアスピリン低反応性と臨床予後の関連を検討する報告が認められるようになり,2008年には19のstudy(cardiovascular patients n=3,003)のmeta-analysisの結果が報告された4).報告によると,PFA-100システムCEPI-CTで評価したアスピリン レジスタンス群はアスピリン反応群に比し心血管イベント率が有意に高かった.そのOR(95%CI)は2.35(1.96-2.83)であった.サブ解析における,9つのnon prospective studiesのmeta-analysisでのORは2.35(1.96-2.83),10つのprospective studiesのmeta-analysisでのORは2.35(1.96-2.83)であった.
VerifyNow(VerifyNow-P2Y12)
VerifyNowシステムはアスピリン,P2Y12阻害薬(チクロピジン,クロピドグレル)の簡易モニターを目的に開発された.それぞれの薬剤専用のテストカートリッジを有しており,アスピリン,チエノピリジン系抗血小板薬の反応性検討の為,惹起剤としてアラキドン酸(VerifyNow-aspirin assay),ADP(VerifyNow-P2Y12 assay)がそれぞれ用いられている.測定原理は比濁法であり,テストカートリッジ内に採血された全血サンプル(クエン酸採血のサンプルを2mL使用)と惹起剤の反応がもたらすフィブリノゲン固相ビーズの凝集測定を行う.測定時間は2~5分である.この機器も卓上サイズで,検査の手技は採血後に採血管ごと機器にセットするのみである.全血サンプルをカートリッジに入れる,と極めてシンプルである.本検査は採血後30分~4時間の間に行う.
VeryfyNow P2Y12による血小板機能検査値と臨床予後,さらにVeryfyNow P2Y12によるモニタリングと臨床予後に関してのinterventional,randomized,placebo-controlled clinical trial(GRAVITAS治験)の内容が2010年のAHA(American Heart Association)において発表された.この試験では約2,800人のクロピドグレル服用PCI患者を対象にVeryfyNow P2Y12による血小板機能評価に基づき行われた抗血小板療法が心血管イベントと関連するかどうかが検討された.患者は血小板機能評価値に基づき,低反応性群と反応性群に分けられ,さらに低反応性群は2つに分けられ,クロピドグレル高用量服用群と通常量服用群に分けられた.半年の追跡結果では,VeryfyNow P2Y12による血小板機能評価は臨床予後と関連することが示された.しかし低反応性群におけるクロピドグレル高用量服用群の患者でも心血管イベントのリスクを減少しきれなかった.今後の追加情報の発信に注目したい.治験の詳細は,http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00645918に記載されている.
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。