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血栓症に関するQ&A PART6

1.成因・危険因子 Q12 腹部大動脈瘤の発生メカニズムについて教えてください

出口順夫

血栓と循環 Vol.19 No.1, 49-52, 2011

Answer
はじめに

 最近,腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm:AAA)の発生ついて,実験動物の動脈瘤モデルなどを用いて興味深い仮説が提唱されているが,ヒトのAAAの発生やその増大,破裂に至る機序はいまだ不明である.腹部大動脈は他の動脈より瘤化の頻度が高く,また家系的発生や喫煙の関与も指摘されていることより,AAAは遺伝的要因,解剖学的要因,環境的要因が複合して形成されてくると考えられている.したがって,多因子によって成立すると考えられるAAAは,stage Ⅰ(aneurysm development,狭義の成因),stage Ⅱ(gradual expansion),stage Ⅲ(rapid expansion and rupture)の3つの段階に分けて検討されることが多い.まずは,AAAの基本的な特徴を確認し,その成因について迫ってみたい.今回は,炎症性や感染性ではなく,一般的な“変性”といわれているAAAについて述べる.

危険因子

 疫学的に,AAAは男性,高齢者,喫煙者に多く,糖尿病患者に少ないことが知られている.高血圧と高脂血症に関しては,報告によって違い確定していない.また,AAAの15%に家族歴があり,遺伝的な要因も認められる.

腹部大動脈の生理的特徴

 腎動脈下腹部大動脈が最も瘤化する頻度が高い.その理由は不明であるが,腹部大動脈の生理的特徴が動脈瘤成因のヒントになっている可能性は高い.まずは,中膜弾性板[エラスチン(弾性繊維)の層]が,胸部大動脈(60~80)に比べ極端に少なく(28~32),この比率は他の動物と比較しても少ない.エラスチン(dry weightで約30%)とコラーゲン(約20%)は血管壁を構成する二大成分であるが,エラスチンは弾力,コラーゲンは張力を与える.中膜弾性板が少ないことは,エラスチン/コラーゲン比が高いことを意味し,弾力性が乏しく固いことを意味している(動脈瘤壁はエラスチン/コラーゲン比が非常に高い).また,外膜からのvaso vasorumがほとんどないこともヒトの腹部大動脈の特徴である.血中の酸素と栄養は,拡散で29弾性板までしか広がらないという報告があり,腹部大動脈壁が容易に低栄養と低酸素になりうることを意味している

ヒトのAAAの病理学的特徴

 病理形態上のAAAの特徴は,(1)内膜の強い動脈硬化,(2)中膜・外膜の細胞間質の破壊とリモデリング,(3)中膜・外膜の慢性炎症細胞の浸潤,(4)外膜の血管新生,である.そのうち,純粋な動脈硬化が内膜のみの変化で中膜・外膜がほぼ正常であること,また,腹部大動脈は加齢とともに径が増大するが,中膜,外膜の細胞外間質の破壊とリモデリングを認めないことより,中膜・外膜の変化がAAAの成因の本質と考えられている.しかし,同じ瘤でも,胸部大動脈瘤は“cystic medial degeneration”という中膜中心の平滑筋細胞の消失,弾性繊維の断片化とムコイド変性を特徴としており,AAAとは異なる病態と考えられている.現在,AAAに関与していると考えられている蛋白等をまとめた(表1)

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