血栓症に関するQ&A PART6
1.成因・危険因子 Q6 セロトニンが血栓・止血に果たす役割について教えてください
血栓と循環 Vol.19 No.1, 27-30, 2011
Answer
はじめに
セロトニン(5-hydroxytryptamine:5-HT)は腸管粘膜のエンテロクロマフィン細胞で産生されて腸管の蠕動運動などを調節する局所ホルモンとして作用するが,一部は門脈に入る.肝臓を通過する間にモノアミンオキシダーゼにより分解されるが,ごく微量のセロトニンは全身循環血中に入り,その大部分は血小板に取り込まれて濃染顆粒に蓄えられる.取り込まれなかったセロトニンは血管内皮(特に肺)で分解される.心血管系に作用するセロトニンの大部分は活性化血小板由来であり,生理学的には外傷時の止血に関与し,病態生理学的には動脈硬化の促進や動脈硬化性疾患の発症に関与する.
血管系における受容体の発現
セロトニン受容体は,現在,7つのファミリーで14種類のサブタイプが知られており,血管内皮,血管平滑筋,血小板から構成される心血管系においては5-HT1B受容体と5-HT2A受容体が主要な受容体である(図1).
血管平滑筋においては5-HT1B受容体と5-HT2A受容体を介して収縮を惹起し,血管内皮では5-HT1B受容体を介して一酸化窒素(NO)や内皮由来過分極因子(endothelium-derived hyperpolarizing factor:EDHF)を産生・遊離させて血管平滑筋を弛緩させる.また,病的状態においては5-HT1B受容体を介して内皮由来収縮因子(endothelium-derived contracting factor:EDCF)を産生・遊離させて血管平滑筋の収縮を促進する.このようにセロトニンはユニークな血管反応を示し,直接的あるいは間接的に血管の収縮・拡張を調節している.また,血小板には5-HT2A受容体が発現しており,血小板凝集反応が惹起される.
生理的止血とセロトニン
生理的な止血機構の維持は,生体にとってきわめて重要な防衛反応の1つであり,外傷や手術などにより血管が破綻すると,露出した血管内皮下組織(コラーゲン,ラミニンなど)に血小板が接着して血小板が活性化され,血小板からADP(adenosine 5’-diphosphate)やセロトニンといった顆粒内容物が放出される.セロトニンは5-HT2A受容体を介して血小板を凝集させるとともに,ADPやコラーゲンに対する血小板の反応性を亢進させて(図2) 1),血管破綻部位に血小板血栓(一次血栓)を形成する.
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