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血栓症に関するQ&A PART6

1.成因・危険因子 Q5 TMAとHUSの違いは何でしょうか

松本雅則

血栓と循環 Vol.19 No.1, 24-26, 2011

Answer
TMA

 血栓性微小血管障害症(Thrombotic Microangiopathy:TMA)は細血管障害性溶血性貧血,消耗性の血小板減少,微小循環障害による臓器障害を特徴とする病態名であり,もとは微小血管の血小板血栓を特徴とする病理学的診断名であった.TMA病態に分類される代表的な疾患として,血栓性血小板減少性紫斑病(Thrombotic Thrombocytopenic Purpura:TTP)と溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome:HUS)が知られており,HUSはTMAに包括される疾患である(図1).

TTPは,血小板減少,溶血性貧血,腎障害,発熱,精神神経症状の5徴候によって診断されるが,最近ではADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)活性著減によって診断される場合もある1).HUSは血小板減少,溶血性貧血,腎不全の3徴候を特徴とする疾患であるが,病原性大腸菌O157:H7感染に伴って発症する症例が90%を占める.TTPとHUSを臨床的に鑑別することは困難な場合があり,成人に発症し精神神経症状を認める場合はTTP,小児に発症して腎障害が強い場合をHUSと診断する傾向がある.しかし,造血幹細胞移植後や膠原病に合併したTMA病態などは,両者いずれとも診断することが困難であることから,TTPとHUSを区別せず,TTP-HUSという統合した診断名を好む医師もいる.また,TTPにおいて5徴候が揃う前の血小板減少と溶血性貧血を認めるのみの段階で血漿交換を始めることが予後改善につながることが明らかとなった.このような背景から,TTPとHUSを厳密に区別することなくTMAが疾患名として使用されることが多くなった.TMAは先天性と後天性に分類可能で,後天性には基礎疾患や特定の薬剤内服などに伴って発症する二次性とそれ以外の特発生がある.

HUS

 HUSは,1955年にドイツのGasserら2)によって最初に報告された疾患である.彼らは溶血性貧血,血小板減少,急性腎不全を呈する小児例5例において,死亡後に詳細な病理学的検討を行い,腎皮質や尿細管壊死,腎細動脈障害などの著明な腎障害をもつことを明らかにし,このような病態をHUSと命名した.その後,1982年に米国で発症したハンバーガーによる食中毒事件で血便と腹痛を症状とする患者にHUSが併発したことで,一般に広く知られるようになった.これらの患者から,病原性大腸菌O157:H7が検出され,この菌が産生するベロ毒素によって腎血管内皮細胞が傷害されHUSが発症することが示された.ベロ毒素はShiga-like toxin(Stx)とも呼ばれ,Stx産生大腸菌として,O157:H7以外にO111:H8,O103:H2,O123,O26などが知られている.これらの下痢関連HUSで腎臓に障害が強い理由として,Stxの受容体であるglobotriaosylceramide(Gb3)が,腎血管内皮細胞や尿細管上皮細胞に高発現していることによるものと考えられている.
 HUSの90%以上は上記の下痢関連HUSであるが,下痢を認めないHUS患者も10%程度存在し,atypical HUS(aHUS)と呼ばれている3).最近,aHUSの病態解析が急速に進み,factor H,factor I,membrane cofactor protein(MCP)などの補体活性化制御因子や血管内皮細胞機能制御因子thrombomodulin(TM)の遺伝子異常が発見された.これらの先天性aHUSは,海外では多数例が報告されているが,日本国内からは症例報告のみである.補体は,本来,異物除去などの生体防衛反応に関与しているが,過剰に反応すると自己組織を損傷する可能性がある.そのため,補体反応を厳密にコントロールする制御反応が補体活性化制御因子である.この制御機構が破綻しているため,補体が活性化する感染症などの際に補体の過剰な活性化を来し血管内皮細胞障害が発生し,aHUSを発症すると考えられる.補体系の遺伝子異常の中で最も頻度が高いのは,factor HでaHUSの20~30%に発見され,次にMCPで10~15%と報告されている.

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