血栓症に関するQ&A PART6
1.成因・危険因子 Q1 ADAMTS13の生理的役割と病態への関与について教えてください
血栓と循環 Vol.19 No.1, 12-14, 2011
Answer
ADAMTS13は血栓形成を防ぐ酵素
ADAMTS13(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motif, 13)は,血小板凝集塊の成長に対して抑制的に働くプロテアーゼ(蛋白質分解酵素)である.主に肝臓で合成され,血漿中に0.5~1μg/mLの濃度で存在する.分子量は約190kDaで,メタロプロテアーゼドメイン,ディスインテグリン様ドメイン,トロンボスポンジン1型モチーフなど,多くのドメイン構造を持っている1)2)(図1).
ADAMTS13が切断する生理的基質は,止血の初期反応である血小板凝集において重要な役割を担う蛋白質von Willebrand因子(von Willebrand factor:VWF)である.主に血管内皮細胞で合成されるVWFポリペプチド鎖は,数十個が直鎖状に共有結合した巨大マルチマー(>20,000kDa)を形成した状態で血液中に分泌される.通常,ADAMTS13によって適度に分断され,500~15,000kDaという広い分子量分布で存在する.VWFマルチマーが長い(分子量が大きい)ほど,血小板凝集能は高い.
VWF遺伝子の変異によってVWFマルチマーの形成不全などが起こると,必要な時に十分な血小板凝集が起こらないために,出血症状が現れることがある.これはvon Willebrand病の一種である.一方,ADAMTS13の働き,すなわちVWF切断活性が失われると,血液中に高分子量のVWFマルチマーが蓄積する.異常高分子量VWFマルチマーは,血小板を過剰に凝集させることで細小血管に血栓を形成することがある.これが原因で現れる病態を血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)と呼ぶ3).
ADAMTS13欠損と血栓性血小板減少性紫斑病
長い間TTPは,血小板減少と細小血管障害性溶血性貧血を呈し,時に腎機能障害や動揺性精神神経障害,発熱を併発する原因不明の疾患とされてきた.その病態は溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)と酷似しており,臨床症状から両者を区別するのは非常に困難である.両者とも血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy:TMA)という病態に属する.詳細は別項(Q5)を参照いただきたい.
TTPの主症状は,血小板が過剰凝集して消費されることで循環血中の血小板が減少し(血小板減少),血栓で生じた血管狭窄部位を通過することで赤血球が破砕される(細小血管障害性溶血性貧血)と考えれば説明できる.多数の微小血栓が生じた臓器では機能障害が起こる.腎臓の細小血管が閉塞すると腎機能障害が現れ,大脳の細小血管が閉塞すると精神神経障害が現れる.初期段階の血小板血栓は自然に崩壊することもあるので,TTPの精神神経障害は一般に動揺性である.
TTPは先天性と後天性に分類される.前者は,家族性かつ反復性であり,先天性TTPあるいはUpshaw-Schulman症候群(Upshaw-Schulman syndrome:USS)と呼ばれ,その原因はADAMTS13遺伝子異常のホモあるいは複合へテロである3)-5).これまでに約90種類のADAMTS13変異が報告されているが,多くはADAMTS13の分泌不全をもたらすため,患者血漿では活性だけでなく抗原量も著減していることが多い.一方,後天性TTPは特発性であり,その原因の多くはADAMTS13に対する活性阻害性の自己抗体である.自己抗体が出現する機序は明らかになっていないが,特にADAMTS13のスペーサードメインを認識する抗体が活性阻害をもたらす例が多い(図1).
ADAMTS13のVWF切断機構と活性測定
ADAMTS13によるVWFの切断には,VWFの高次構造変化が必要である.In vitroでは,ずり応力を与えたりタンパク質変性剤を添加するなどによりVWFをほぐすことで切断反応が進む.したがって,生理的には,血管損傷などで内皮下組織に粘着した血小板に,さらにVWFを介して血小板同士が凝集し始めた状態で,速い血流による高ずり応力を受けたVWFをADAMTS13が切断することで,必要以上の凝集を防ぐと考えられる.
ADAMTS13はVWFの特定の部位を1箇所切断するが,その反応において,ADAMTS13とVWFは互いの分子構造を広範囲で認識する6).少なくともin vitroでADAMTS13が十分な活性を発揮するには,メタロプロテアーゼドメインからスペーサードメインまでが必須であり(図1),一方,VWF側ではA2ドメインに含まれる73残基(VWF73と呼ぶ)が必要十分である7).
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。