特集 喫煙のサイエンスⅢ
基礎医学とのダイアローグ
2.ニコチン性アセチルコリン受容体(ニコチン受容体)と作用薬
THE LUNG perspectives Vol.27 No.1, 62-66, 2019
ニコチン性アセチルコリン受容体(ニコチン受容体)は5つのサブユニットタンパクから構成されるイオンチャネル内蔵型受容体であり,アセチルコリンの刺激により開口し,細胞外からNa⁺イオンを流入させ,神経細胞や筋細胞を興奮させる.一般に,αβδε(γ)サブユニットからなる筋肉型(NM)ニコチン受容体と,αβサブユニットから構成される自律神経型(NN)ニコチン受容体および中枢神経型受容体に大別される.筋細胞に分布するNMニコチン受容体は運動神経終末から遊離されるアセチルコリンにより活性化され,筋肉を収縮させる.α₃α₅β₄サブユニットからなるNNニコチン受容体は自律神経節に分布し,節前線維から遊離されるアセチルコリンにより活性化され,節後神経を興奮させる.一方,脳内にはα₇ホモ5量体のα₇ニコチン受容体およびα₄β₂ヘテロ5量体のα₄β₂ニコチン受容体が存在し,ニコチンはこれらの受容体を介して抗うつ作用,運動興奮作用,依存形成作用,アルツハイマー病やパーキンソン病に対する予防効果などを示す.特に,ニコチンによる依存形成は喫煙習慣性の原因となっており,「報酬回路」と呼ばれる中脳-大脳辺縁系ドパミン神経や中脳-大脳皮質ドパミン神経の活性化に起因すると考えられている.慢性喫煙者では,ニコチン摂取量を徐々に減量して禁煙を達成する必要があり,禁煙補助薬のニコチン製剤やα₄β₂ニコチン受容体部分作動薬のバレニクリンなどが使用されている.本稿では,ニコチン受容体のサブタイプ,体内での発現分布,ニコチン受容体に作用する薬物およびニコチン受容体を介する薬理作用について概説する.
「KEY WORDS」ニコチン,喫煙,α₄β₂ニコチン受容体,α₇ニコチン受容体,薬物依存
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