MEDICAL TOPICS
SOCS-1遺伝子治療は放射線感受性を改善し,DNA障害を増強させる
THE LUNG perspectives Vol.26 No.2, 72-77, 2018
Suppressor of cytokine signaling(SOCS)は,細胞の分化や生存,増殖などを制御するサイトカインシグナル伝達経路であるjanus kinase(JAK)/signal transducer and activator of transcription(STAT)経路によって誘導され,JAK/STAT経路を阻害する負の制御分子である。SOCSは,共通領域としてSH2領域とSOCS-box領域を有する7つのファミリー分子が存在しており,そのうちSOCS-1は,1997年にNakaらによってクローニングされた1)。SOCS-1は, キナーゼ阻害領域(kinase inhibitory region;KIR)を有しており,JAKに作用し,そのキナーゼ活性を抑制することでサイトカイン活性を制御している。また,SOCS-1は,JAK/STAT経路に加えて,mitogen-activated protein kinase(MAPK)経路やfocal adhesion kinase(FAK)経路など様々なシグナル伝達経路に作用することが明らかになっている2)3)。しかし,がん細胞においては,SOCS-1はメチル化によるエピジェネティックな発現抑制を受けていることが多くのがん種で報告されている。SOCS-1による負のフィードバック機構が働かないことが,がん細胞における炎症性サイトカイン経路の慢性的な活性化の原因の1つと考えられている4)―8)。我々は,肺癌,悪性中皮腫,食道癌,胃癌,皮膚癌などの固形がんに対して,非増殖型5型アデノウイルス(AdSOCS-1)ベクターを用いてSOCS-1をがん細胞内で高発現させることによって,がん細胞の増殖を抑制し,良好な抗腫瘍効果をもつことを報告してきた6)―11)。
近年,様々ながんにおいてJAK/STAT経路のシグナル伝達分子であるシグナル伝達兼転写活性化因子3(signal transducers and activators of transcription 3;STAT3)が放射線治療や化学療法の治療抵抗性に関わる分子として着目されている12)。放射線治療は,様々ながん種において標準治療の1つとして有効性が確立されているが,がん細胞の放射線耐性による治療効果不良や治療後の再発が臨床上の問題となっている。そのため,放射線感受性を向上する新たな治療法の確立が望まれているところであり,現在,がん細胞における放射線耐性の分子機構について多くの研究がなされている。
本稿では,がんにおけるSTAT3の活性化と放射線治療抵抗性との関連を明らかにし,JAK/STAT経路に作用することでSTAT3の活性化を阻害するSOCS-1遺伝子治療が放射線治療感受性を改善するメカニズムについて概説し,その将来展望について述べる。
本総説はCancer Research誌2017年77号に掲載された内容を中心にまとめたものである13)。
「KEY WORDS」放射線治療,扁平上皮癌,STAT3,Mcl-1,DNA障害
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。