「はじめに」細胞老化研究は,多細胞生物における個体老化を理解する上で重要だが,その成果は,個体老化と関連するという観点での検証が常に必要である。前回,「細胞老化概論(1)」では,細胞老化を大きく2つに分類して(複製老化・テロメア依存性とストレス細胞老化・テロメア非依存性)概説した1)-3)。今回は後者のなかでも, 慢性炎症とSASP(senescence associated secretary phenotype)を中心に解説する。
「Ⅰ SASP」1. ストレス細胞老化のなかのSASP
「ヘイフリックの成長限界(複製老化)」がテロメア依存性と判明した一方で,細胞が若くても(テロメアが十分に長くても),ストレス(酸化ストレス,有害毒性物質,DNA 傷害誘起剤,環境因子)によりテロメア非依存性に細胞老化が誘導される現象を「ストレス老化」と呼ぶ。ストレス老化のなかでも,1997年に報告された「がん遺伝子ストレス」の発見は,発癌遺伝子による老化誘導現象は,生体のもつ発癌防御機構の1つであるという新概念を生んだ。すなわち老化が「必要悪」と認識されたわけである。