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MEDICAL TOPICS

第40回 「臓器を異種動物個体内で再生する」

Generation of organ from pluripotent stem cell in xenogenic environment

小林俊寛中内啓光

THE LUNG perspectives Vol.19 No.4, 74-78, 2011

Summary
 ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞から臓器を作製することは再生医療の究極的なゴールの1つであるが,臓器のもつ三次元的な構造や構成細胞の多様性をin vitroで再現するのは非常に困難である。そこでわれわれは胚盤胞補完法という方法により,ラットのiPS細胞由来の膵臓をPdx1 KOマウスという本来膵臓を欠損するマウスの体内に作製することで,in vivoで多能性幹細胞由来の臓器を作製するという新たな方法を示すことに成功した。

Key words
多能性幹細胞,胚盤胞補完法,異種間キメラ

歴史的背景

 多能性幹細胞はあらゆる細胞に分化できる多分化能と,in vitroでの無限の増殖能を兼ね備えたきわめて特殊な細胞で,受精卵から樹立される胚性幹細胞(ES細胞)がその代表的な存在として知られている。その特徴から,理論的には特定の培養条件下で望みの細胞を大量に作り出すことが可能であり,損傷した細胞や組織を補う再生医療のためのソースとして大きな期待が寄せられている。ES細胞は受精卵から樹立されるため,患者個人に応じた細胞を作り出すことが困難で,分化させた細胞を治療に用いる際に免疫拒絶を引き起こす可能性がある。また,樹立のためにその後発生可能な胚を壊すという経緯から倫理的な問題があり,臨床応用へのハードルは高かった。しかし近年,体細胞に特定の転写因子を導入するだけでES細胞と同等の多能性幹細胞=人工多能性幹(induced pluripotent stem;iPS)細胞の樹立が可能となり1)2),このような問題が解決され,世界中で治療に向けた研究が加速化した。現在までに多能性幹細胞から,輸血や白血病治療のための血液細胞,糖尿病治療のための膵β細胞,パーキンソン病治療のためのドーパミン産生細胞など,さまざまな細胞への分化誘導法が開発されており,日ごとにその効率性や機能性が高まり,成体の細胞と遜色ないものが作られるようになるのは時間の問題と思われる。
 このような細胞治療を目指した特定の細胞系譜への分化誘導法の開発が着実に進んでいる一方で,多能性幹細胞から臓器を作り出すことができれば,臓器移植におけるドナー不足の解消に繋がるだけでなく,患者自身の細胞からなる臓器を移植できることから移植後の免疫抑制剤も不要となり,まさに究極的な再生医療が実現できると思われる。しかしながら,臓器のもつ三次元的な構造と,多様な構成細胞をin vitroで再現し移植可能な臓器を作り出すのは困難で,現代の技術では限界があるとされてきた。

仮 説

 多能性幹細胞から臓器を作り出すために,われわれはin vitroではなくin vivoの発生過程と,多能性幹細胞のもつキメラ形成能を利用できないかと考えた。個々の臓器は発生過程において,もとは受精卵という単一の細胞を起源とし,その後,時間的・空間的に厳密な制御を受ける複雑な細胞間の相互作用によって作り出される。よってこの発生過程にうまく多能性幹細胞を導入すれば,周りの細胞と正常な相互作用を起こし,複雑な臓器も作り出せるのではないかと思われる。特にげっ歯類において,多能性幹細胞は胚盤胞に注入することでその後の胚発生に同調・寄与し,全身の細胞に分化できるキメラ形成能をもっているため,この能力を利用できないかと考えた。しかし,このように通常の胚に導入しただけでは,できた臓器は多能性幹細胞由来のものと胚由来のものが混じり合ったキメラ状態になってしまう。そこで着目したのが胚盤胞補完法(Blastocyst complementation)という方法である。
 Rag2ノックアウト(KO)マウスという,成熟したリンパ球を完全に欠損したマウスの胚盤胞に正常なES細胞を注入すると,生まれてきたマウスは完全にES細胞由来のリンパ球をもつキメラマウスになることが報告され,この方法は胚盤胞(blastocyst)由来の欠損を補う(complement)という意味合いから胚盤胞補完法と名付けられた3)。この胚盤胞補完法を応用し,細胞レベルではなく臓器レベルの「空き」をもった動物の胚盤胞を用い,そこに多能性幹細胞を導入することで,多能性幹細胞由来の臓器が作れないかと考えた。

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