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呼吸器と循環器のクロストーク―薬物の進歩―

基礎医学とのダイアローグ Rho-キナーゼ/ROCKと肺高血圧症

Role of Rho-kinase/ROCK in pulmonary hypertension

加藤勝洋天野睦紀貝淵弘三

THE LUNG perspectives Vol.19 No.4, 69-73, 2011

Summary
 血管平滑筋の収縮弛緩のメカニズムは,カルシウムシグナルによるミオシン軽鎖のリン酸化で説明されてきたが,カルシウムシグナル以外の制御機構として低分子量GTP結合タンパク質Rhoとその標的分子であるRho-キナーゼの経路が同定された。その後,Rho-キナーゼの特異的な阻害薬を用いることで,Rho-キナーゼが冠動脈攣縮や脳血管攣縮の血管過収縮状態などさまざまな病態に関与していることが示されてきた。昨今では,肺高血圧症においても,このRho-キナーゼの関与が明らかとなり,Rho-キナーゼ阻害薬が新たな肺高血圧症(PH)の治療薬として注目を集めている。本稿では,PHにおけるRho-キナーゼ依存性病態メカニズムについて概説し,その阻害薬のPH治療薬としての可能性について言及していく。

Key words
Rho,Rho-キナーゼ,myosin light chain phosphatase,Ca2+-sensitization,肺高血圧症

はじめに

 今から15年ほど前に低分子量GTP(guanosine triphosphate)結合タンパク質Rhoの標的分子としてRho-キナーゼが同定され,平滑筋収縮をはじめさまざまな生理機能を制御していることが明らかにされてきた。また,同時代に開発されたRho-キナーゼの特異的阻害薬を用いた解析から,Rho-キナーゼが血管攣縮をはじめとするさまざまな疾患に深く関与し,その阻害薬が有効な治療薬である可能性が示唆されてきている。
 本稿では,Rho/Rho-キナーゼによる血管平滑筋の収縮制御機構について概説する。さらに肺高血圧症(pulmonary hypertension;PH)とRho-キナーゼの関わりについて解説したい。

Ⅰ Rho/Rho-キナーゼと血管収縮

 血管平滑筋の収縮力は,生理的には細胞内カルシウム(Ca)2+濃度に依存している。平滑筋は高カリウム(K)+溶液を用いることで膜の脱分極を介したCa2+チャネルの開口により細胞内Ca2+濃度を上昇させると,Ca2+-カルモデュリン複合体が形成され,これがミオシン軽鎖(myosin light chain;MLC)キナーゼ(myosin light chain kinase;MLCK)を活性化する。その結果,2型ミオシンのMLCの19番目のセリンがリン酸化されてミオシンのATPase(adenosine triphosphatase)活性が上昇することによりアクトミオシンの張力が発生する。その後,上昇した細胞内Ca2+濃度が減少してMLCKが不活化されるとともに,ミオシン軽鎖ホスファターゼ(脱リン酸化酵素)(myosin light chain phosphatase;MLCP)がリン酸化MLCを脱リン酸化することによって平滑筋は弛緩すると考えられている。しかしながら,冠動脈攣縮や脳血管攣縮など異常な血管の収縮を伴う病態や一部の高血圧においては,必ずしも細胞内Ca2+濃度とMLCのリン酸化レベルが一致しないことが知られていた。前述のごとく,平滑筋は細胞外高K+溶液刺激による細胞膜の脱分極を介したCa2+チャネルの開口による細胞内Ca2+濃度上昇に依存した収縮が引き起こされるが,エンドセリン,セロトニン,トロンボキサンやノルアドレナリンなどのアゴニストを用いると,高K+溶液を用いた収縮とは異なり,細胞内Ca2+濃度上昇に依存しない。すなわち,より低いCa2+濃度で強い収縮を引き起こすことができる。このように同じ細胞内Ca2+濃度に対してより大きい収縮が生じる現象はCa2+感受性の亢進(Ca2+-sensitization)と呼ばれ,これが,冠動脈攣縮や脳血管攣縮など異常な血管の収縮を伴う病態メカニズムであることが提唱されていた。15年ほど前にわれわれは,低分子量GTP結合タンパク質Rhoとその標的分子であるRho-キナーゼがCa2+-sensitizationにおいて重要な役割を果たしていることを示した。Rhoは平滑筋においてアゴニストによって活性化され,標的分子であるRho-キナーゼを活性化する。活性化されたRho-キナーゼは,直接MLCをリン酸化すると同時に,MLCPのミオシン結合サブユニット(myosin phosphatase targeting subunit 1;MYPT1)をリン酸化することによりMLCPの活性を抑制する。MLCのリン酸化レベルはMLCKとMLCPの活性のバランスにより決定されるため,Ca2+によるMLCKの活性の上昇がなくても,MLCPの活性抑制によりMLCのリン酸化レベルが上昇し,平滑筋収縮が起こる(図1)。

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