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呼吸器と循環器のクロストーク―薬物の進歩―

慢性血栓塞栓症による肺高血圧症に対する外科治療

Surgical treatment for chronic thromboembolic pulmonary hypertension

増田政久

THE LUNG perspectives Vol.19 No.4, 45-48, 2011

Summary
 Pulmonary hypertension due to chronic thromboembolic and/or embolic disease(慢性肺血栓塞栓/塞栓症)は肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension;PAH)を呈する疾患の1つである。
 肺血栓塞栓症は欧米では心筋梗塞,脳梗塞と並んで比較的一般的な疾患で,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis;DVT)から始まる一連の静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism;VTE)として理解され,突然死を免れた急性例の0.1~0.5%が慢性例に移行し,その予後は不良で重症度は肺動脈圧と相関する。成因には不明な点も多く肺高血圧が進行するメカニズムは十分に解明されておらず,内皮細胞の障害に端を発した血管のremodelingといわれている。
 近年の肺血管拡張療法を中心とした肺高血圧症に対する内科治療の進歩は著しいものがあるが,慢性血栓塞栓症が病因で肺動脈の比較的中枢から病変がある症例には,外科治療(肺動脈内膜摘除術;PEA)を積極的に考慮すべきであり,手術の可否を含めた術前診断が重要となる。

Key words
慢性血栓塞栓性肺高血圧症,肺動脈内膜摘除術,肺高血圧症薬物療法

はじめに

 肺血栓塞栓症は欧米では心筋梗塞,脳梗塞と並んで比較的一般的な疾患で,最近では深部静脈血栓症(deep vein thrombosis;DVT)から始まる一連の静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism;VTE)として理解され,急性例は大震災時の避難所生活との関連や手術後の突然死の原因として注目される1)。一方,慢性例の多くは急性例の延長上にあるとされ,単発あるいは反復して急性肺血栓塞栓症を起こし突然死を免れた例の0.1~0.5%が慢性例に移行するといわれている。その重症度は平均肺動脈圧(m-PAP)と相関しm-PAP>50mmHgの場合,その5年生存率は10%ときわめて予後不良な疾患である2)。動物実験モデルでその病態を再現することが困難なためその成因には不明な点が多いが,VTEに比べfactorⅧやantiphospholipid antibodies(抗リン脂質抗体)/lupus anticoagulant(ループス抗凝固因子)の保有率が高いことや,感染や甲状腺機能低下症に対する加療,悪性疾患の合併の有無などの環境因子の影響が指摘されている3)。慢性例で徐々に肺高血圧が進行するメカニズムは十分に解明されていないが,内皮細胞の障害に端を発した血管のremodelingといわれている。
 慢性例に対しては外科治療の肺動脈内膜摘除術(pulmonary endarterectomy;PEA)が比較的中枢から病変がある場合にきわめて有効な手段であるので,手術の可否を含めた術前診断が重要となる。本稿では診断の流れと外科治療について述べる。

Ⅰ 診断の流れ

 急性肺血栓塞栓症に起因する慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension;CTEPH)の発症率を正確に把握することは無症候性の急性例が多数存在することからも困難である。また明らかな基礎疾患がない症例も多く,その病態はいまだ不明な点が多い。わが国では診断の手引きが厚生労働省特定疾患呼吸不全調査研究班から示されて以来,労作性息切れを主訴とする疾患の1つとして鑑別されるようになったことは大変意義深い4)。
 一般的にPaCO2低下を伴うPaO2低下があり,心エコーで右室肥大(拡大),またはドプラー心エコー法で高い右室収縮期圧の所見を認めたら本症を疑う。肺換気・血流シンチグラフィーあるいは造影CTでスクリーニングを行い,さらに手術適応を判断する詳細な所見を得るには右心カテーテルと肺動脈造影は必須となる5)。いずれにしても鑑別診断に本症を念頭に置くことがポイントである。

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