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第8回 Genomewide Association Studies(その3)

─ゲノム薬理学(Pharmacogenomics)への応用─

本家孝一

THE LUNG perspectives Vol.19 No.3, 104-108, 2011

はじめに
 本シリーズの第1回と第2回でGenomewide Association Studies(GWAS)の原理と疾患罹患性への応用について解説した1)2)。今回は,New England Journal of Medicine誌(2011年3月24日号)に掲載された総説3)をもとに,ゲノム薬理学への応用について紹介する。

Ⅰ ゲノム薬理学と薬理遺伝学

 ICH*1[http://www.pmda.go.jp/ich/ich_index.html]の有効性(efficacy)に関するガイドラインのなかのE15:ゲノム薬理学の用語集によると,ゲノム薬理学(pharmacogenomics;PGx)は「薬物応答と関連するDNAおよびRNAの特性の変異に関する研究」と定義されている。一方,薬理遺伝学(pharmacogenetics:PGt)はゲノム薬理学の一部として「薬物応答と関連するDNA配列の変異に関する研究」と定義されている。ここで,薬物応答には薬物動態や薬物の有効性のみならず副作用も含まれる。つまり,ある医薬品の効きやすい人と効きにくい人,副作用の出やすい人と出にくい人の差は,いったいどのような遺伝素因が関与するのかということを研究する学問である。ある遺伝子座位の多型(genetic polymorphism)と薬物応答との関係が明らかになれば,薬物投与前に患者の遺伝子型を調べることで,その患者の遺伝形質に合わせた薬物を適当量投与することができるようになる。まさしくオーダーメイド医療時代の到来である。遺伝的多型と薬物応答との関連を調べるのに,以前に示した疾患罹患性と同様,GWASによるアプローチが網羅的かつ有効である。

Ⅱ ワルファリンに対する薬物応答性

 ワルファリンは,心血管疾患に最もよく処方されている経口抗凝固薬であるが,患者によって投与用量が異なり,出血や予期せぬ血液凝固といった副作用をきたしやすく,救急医療を要すことも多い。用量は,PT-INR*2をモニタリングすることにより決められる。ワルファリンは,ビタミンKの働きを抑制することにより抗凝固作用を示す。
 ビタミンKは,肝ミクロソームなどに局在するビタミンK依存性カルボキシラーゼの補酵素として働き,血液凝固因子の第Ⅱ(プロトロンビン),Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ因子などのビタミンK依存性タンパク質の特定のグルタミン酸残基に,もう1つカルボキシル基を導入してγ-カルボキシグルタミン酸に変換させる(図1)。

γ-カルボキシグルタミン酸の2つのカルボン酸はCa2+を結合でき,これにより凝固因子としての活性を獲得する。
 血液凝固因子の活性化に必要なγ-カルボキシル化反応には還元型のビタミンK(ビタミンKジヒドロキノン)が必要で,この反応によりビタミンK自身は酸化されて不活性型のエポキシドになる(図1)。これを活性型のビタミンKに再生するために還元反応が必要で,ワルファリンはこの還元酵素VKORC1を阻害する。ワルファリンの作用で還元型ビタミンKが枯渇すると,γ-カルボキシル化が阻害される。
 ワルファリンは,チトクロームP450酵素の一種のCYP2C9によって水酸化され代謝される。CYP2C9には,野生型のCYP2C91以外にCYP2C92とCYP2C9*3という2つのアロザイム3が存在する。CYP2C92とCYP2C93は,CYP2C91と比べて,それぞれ,12%と5%の酵素活性しかない。10年以上も前に,ワルファリンの用量が少ない患者のなかに,CYP2C92かCYP2C93の変異型をもっている人がみつかり,このような患者はワルファリン服用時に出血をきたしやすいことが報告された。ワルファリンの代謝が遅く,効果が強く出るためと考えられる。
 一方,2004年にワルファリンの直接の標的分子がVKORC1であることが発見され,VKORC1遺伝子の一塩基多型(SNPS)がワルファリンの用量と相関することが示された。
 2009年になってはじめて,ワルファリンの用量に関するGWASが約1,000人のスウェーデン人の患者を対象に行われた4)。その結果,CYP2C9遺伝子座位とVKORC1遺伝子座位のところに2ヵ所強いシグナルが得られ(図2A),前述した個別の遺伝子解析による成績とよく相応する。

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