前立腺の慢性炎症は下部尿路症状(lower urinary tract symptoms;LUTS)進行のリスク因子と考えられております。MTOPS試験では,炎症があると尿閉リスクが高く,症状進行も高率であると報告されております1)。REDUCE試験では,炎症の強い群は国際前立腺症状スコア(IPSS)高値,前立腺体積も大きいと報告されております2)。また,炎症を血清CRP値や血中・尿中の炎症性サイトカインを定量化することで評価している研究も多くあります3)。しかし,炎症評価に関して,組織のリンパ球浸潤を数段階のGradeで分類する方法では,検者の主観を排除できないといったことや,数段階程度のGrade分類では炎症の程度を正確に反映できていない可能性があります。CRPや炎症性サイトカイン測定による方法は,組織の炎症を間接的にみているに過ぎないことや,炎症という現象のある一面を捉えているだけであり,前立腺の炎症強度の評価尺度としての正確性にやや疑問が残るといわざるを得ません。そこで,われわれは慢性炎症の定義に戻って,前立腺の慢性炎症を正確に定量化できないか考えました。
炎症組織へのリンパ球浸潤において,前段階として高内皮細静脈(high endothelial venule;HEV)様血管(HEV-like vessel)におけるリンパ球ホーミングという現象が必ず起こります4)5)。リンパ球ホーミングとは,高内皮細静脈を介した血流と二次リンパ組織間でのリンパ球のやり取りのことをいいますが,これと同じことがHEV-like vesselを介して血流と炎症局所でも起こることが知られています。つまり,慢性炎症があるところに必ず存在するHEV-like vesselを定量することで,炎症を客観的に直接評価できる可能性があると考えました。