<< 一覧に戻る

BPHの自然史を踏まえた治療ストラテジー

アドレナリンα₁受容体遮断薬の役割

横山光彦永井敦

排尿障害プラクティス Vol.19 No.4, 35-40, 2011

 前立腺肥大症は進行性の疾患であり,経時的に症状の増悪,前立腺腫の増大,急性尿閉の発症といった事象を呈する.前立腺肥大症に対する初期治療としてα遮断薬が使用されるが,2年程度では病状進行を抑制するが長期的には抑制効果は減弱していくことも分かってきた.進行の予測因子としては,治療開始時の前立腺体積およびPSA値が最も有効な指標と考えられる.また初期治療に反応が悪い群も手術移行の可能性が高いとされる.前立腺体積35ml以上PSA1.5ng/ml以上,α1遮断薬での初期治療で反応が悪い患者は,5αリダクターゼ阻害薬の併用や手術介入を考慮すべきと思われる.逆にα1遮断薬での長期投与が期待できるのは前立腺体積が30ml以下,PSA1.5ng/ml以下,残尿30ml以下で治療に反応性がよい患者であると考えられる.

Key Words
前立腺肥大症,LUTS,α遮断薬,増悪因子,長期投与

はじめに

 1980年代に前立腺肥大症(BPH)に対してアドレナリンα1遮断薬(α1遮断薬)の有用性が認められ現在に至るまで,α1遮断薬はBPH治療のfirst line となっている.α1遮断薬はBPHに伴う下部尿路症状(LUTS)に対する最も一般的な薬剤である.早期に効果発現を認め,多くの治験では1年以上にわたりその効果は持続するとされている.しかしながら前立腺肥大の進行を抑制する効果はなく,手術へ移行する割合は平均4.5年の経過ではプラセボと差を認めないともされ,単剤のみで長期にわたりコントロールされる症例は限られる.本稿では,BPHに対するα1遮断薬の役割に言及する.

Ⅰ α1遮断薬の作用機序

 前立腺にはアドレナリン作動性交感神経が豊富に分布している.前立腺平滑筋は薬理学的にノルアドレナリンなどのα1アドレナリン刺激薬に対して収縮反応を示し,この収縮反応はα1アドレナリン遮断薬で抑制される.このことより,前立腺平滑筋にα1アドレナリン受容体が存在し,前立腺収縮は交感神経支配下で,α1アドレナリン受容体を介して引き起こされると考えられる.このような背景より,降圧薬として開発されたα1遮断薬の塩酸プラゾシンが1989年に「BPHに伴う排尿障害」に対して効能追加された.アドレナリン受容体は前立腺以外の臓器にも存在し,特に血管平滑筋には豊富に存在して血管収縮に関与し血圧の調節をしている.そのため降圧効果のあるα1遮断薬では,血圧低下,めまい,立ちくらみなどの副作用もみられた.最近の研究では,前立腺に存在し,尿道抵抗を増大させ,動的閉塞をもたらすのは主にα1A,α1Dであり,一方血管平滑筋収縮に関与するのはα1Bであることが明らかとなった.わが国では,1993年α1A受容体に選択性が高く心血管系への影響が少ないタムスロシン塩酸塩が発売となり,さらに1999年α1Dに選択性が高いナフトピジル,2006年にはα1Aに超選択性のシロドシンが上市された.海外で主に使用されるα1遮断薬の比較試験での報告では,タムスロシン,テラゾシン,ドキサゾシン,アルフゾシン投与後,いずれの薬剤も投与数日で効果が発現し,1~3カ月後にはIPSSにおいては4~6ポイント改善し,Qmaxは2~3ml/s改善するとされている1).また前立腺体積,PSAによる効果の違いはなく,進行を抑制する効果もないことが分かっている2).さらにいずれの薬剤も有効性はほぼ同等であるが,副作用発現はタムスロシン,アルフゾシンが少ないとされている3).

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る