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前立腺癌

第28回 アンチアンドロゲン除去症候群

赤倉功一郎

排尿障害プラクティス Vol.19 No.2, 65-69, 2011

はじめに
 前立腺癌は一般にアンドロゲン依存性増殖を示し,アンドロゲン作用の抑制によりアポトーシスを介して癌細胞が死滅する.アンドロゲン除去による内分泌療法の短期治療効果は良好であるが,時を経てアンドロゲン依存性を喪失して治療に不応となり再燃を来すことが臨床上の大きな問題である.

はじめに(続き)

 従来,内分泌療法の治療耐性に関して,ホルモン抵抗性前立腺癌(hormone-refractory prostate cancer;HRPC)という呼称がしばしば用いられてきた.しかし,治療抵抗性となっても,多くの例でアンドロゲンレセプターを介した増殖制御経路が保たれていることが示され,各種のアンチアンドロゲン薬や副腎皮質ステロイドなど内分泌療法の方法が多様化した.また酢酸アビラテロンやMDV3100などの新規内分泌療法治療薬が開発されてきた.さらに,化学療法の適応時期についても,一律に内分泌療法に不応となったときと定めることはできなくなった.このようにHRPCの定義が不明確になってきたため,最近では,血清テストステロン値を去勢域に抑制する治療に不応となった場合を特定して去勢抵抗性前立腺癌(castration-resistant prostate cancer;CRPC)と呼ぶようになった.
 アンチアンドロゲンの中止による病状の好転(アンチアンドロゲン除去症候群)もCRPCに対する二次内分泌療法のひとつとみなされる.本稿では,アンチアンドロゲン除去症候群の実態,発現機序,臨床対応における意義や注意点などについて概説する.

アンチアンドロゲン除去症候群とは

 去勢とアンチアンドロゲンを併用したMAB(maximum androgen blockade)/CAB(combined androgen blockade)療法によって治療されていた前立腺癌患者において,病状の悪化を認めた際にアンチアンドロゲンを中止すると血清前立腺特異抗原(prostate specific antigen;PSA)の減少や臨床所見の改善をみることがある.この現象は,1993年にKelly & Scherが非ステロイド性アンチアンドロゲンであるフルタミドの中止後のフルタミド除去症候群として報告したことに端を発する1).その後,他のアンチアンドロゲンであるビカルタミドや酢酸クロルマジノン,さらにリン酸エストラムスチンナトリウムなどの中止後にも同様の現象が起こりえることが明らかとなり2),現在では「アンチアンドロゲン除去症候群」と呼ばれている.
 この現象がひろく周知される以前には,骨転移の痛みや局所増大による水腎症などといった症状や所見の増悪が現われてから,アンチアンドロゲンの中止が試みられる場合が多かった.しかし,現在ではMAB/CAB療法で治療中にPSA上昇を認めた場合には,症状や画像所見の悪化がなくとも,早期にアンチアンドロゲンを中止することが一般化した.したがって,アンチアンドロゲン除去症候群の定義としてPSAの減少の有無で判定することが多い.すなわち,アンチアンドロゲン中止後にPSA値の50%以上の減少を認めた場合にアンチアンドロゲン除去症候群ありと診断する.その際,フルタミドや酢酸クロルマジノンにおいては約4週間,半減期の長いビカルタミドでは6~8週間のPSAの経過観察が必要である.

アンチアンドロゲン除去症候群の発現機序

1 アンドロゲン依存性増殖と依存性喪失の機序

 アンドロゲンは,核内受容体であるアンドロゲン受容体と複合体を形成してこれを活性化する.そして,DNA上にあるアンドロゲンレスポンスエレメントに結合することによって,その下流のアンドロゲン応答遺伝子の転写翻訳を促して作用を現す.このように,アンドロゲン作用の発現において最も重要な役割を担っている分子はアンドロゲン受容体である.アンドロゲン受容体遺伝子の構造として,リガンドであるアンドロゲンが結合するリガンド結合領域,DNA上のアンドロゲンレスポンスエレメントと結合するDNA結合領域,および主に転写活性を調節するN末端領域などの機能領域が存在する.アンドロゲン依存性喪失の分子機構としていくつかの要因が指摘されているが,そのうち多くがアンドロゲン受容体に関連する要因である(表1)3).

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