冠動脈疾患は,その他の多くの循環器疾患と同様に遺伝しうる疾患である。表現型のバリアンスの遺伝率は,双子研究などから50%以上とも推定される1)。遺伝しうる疾患であるがゆえに,われわれは古くから家族歴,時に極端な表現型としての早発性冠動脈疾患の家族歴の情報を診療に活用してきた。また,冠動脈疾患の最大のリスク因子である脂質についても,大いに遺伝しうる形質であることは,極端な表現型としての家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)の症例からも明白であり,冠動脈疾患個別化医療を考える場合には考慮すべきである。このような希少有害遺伝子変異に伴う遺伝性冠動脈疾患に加えて,近年では,遺伝子多型のうち高頻度一塩基多型(single nucleotidevariation:SNV)の重積に伴う遺伝的高リスク群が存在する。この群は希少有害遺伝子変異に伴う遺伝性冠動脈疾患と比較し,圧倒的に高頻度であること,また,血圧や脂質などいわゆる古典的リスク因子の評価ではこの群の同定は困難であることが重要である。本稿では,ヒトゲノムと疾患との関わりを希少有害遺伝子変異(rare & largeeffect)と高頻度遺伝子多型(common& small effect)に分けて捉えることにより,研究としてのアプローチは異なるものの,最終的には両者ともに冠動脈疾患個別化医療の実践に不可欠であることを示したい。
「KEY WORDS」冠動脈疾患,家族性高コレステロール血症,一塩基多型,polygenic risk score