糖尿病が,肥満やメタボリックシンドロームなどを背景とした大血管障害の危険因子であることは十分認知されている一方で,それらとは独立した心不全の危険因子であることは,日常診療におけるピットフォールであった。糖尿病と心不全の連関の背景にある機序は,さまざまな代謝異常を介した複雑な全身疾患と考えられており,その表現型も潜在的な左室拡張機能障害を呈しやすいため,十分な診断がなされないケースが多いとも考えられている。そのため,わが国を含めてこの連関に対する基礎的・臨床的な理解がいまだ乏しいのが現状である。しかし,昨今の高齢化による心不全の増加や糖尿病治療薬の目覚ましい発展などにより,心不全と糖尿病の連関に大きな注目が集まると同時に,その連関における心不全予防戦略の確立が急務となっている。一般に,HbA1cが1%上昇するにつれて心不全入院や心不全死のリスクは8%増加することが報告されており1),糖尿病の重症度に比例して心不全予後は悪化するとされている。また,心不全を合併した糖尿病患者におけるHbA1cと死亡率の間にはUカーブ現象がみられたことなどから,ただ単に血糖を下げるだけではその心不全予後を改善させることは困難であり,この病態に即した治療法の開発が求められている。
「KEY WORDS」心不全予防,心血管アウトカム試験,SGLT2阻害薬,急性・慢性心不全診療ガイドライン,2型糖尿病