特集 腸内細菌と循環器疾患
座談会 腸内細菌やその生体機能に介入する循環器疾患治療
CARDIAC PRACTICE Vol.29 No.4, 55-61, 2019
平田 Jeffrey Gordonが腸内細菌と肥満との関係を報告1)してから,炎症性腸疾患をはじめ,さまざまな領域で研究が進み,最近では脳神経,循環器,腎臓,癌の領域でも研究されています。本日は主に循環器と腎臓領域で腸内細菌がどのように疾患と関係しているか,データやお考えをご紹介いただき,診断や治療にどのように応用できるかについてもお話しいただければと思います。
山下先生は腸管免疫からスタートし,腸内細菌と動脈硬化について研究されてきましたが,これまでの疾患と腸内細菌研究について簡単にご紹介いただけますか。
山下 昔は細菌といえば培養というイメージでしたが,次世代シーケンサーとバイオインフォマティクスの進歩によって存在する細菌の網羅的解析が可能になったことが,腸内細菌の研究が進んだ一番の要因です。2006年の『Nature』にJeffrey Gordonが,肥満患者はグラム陽性菌であるFirmicutesが多く,グラム陰性菌であるBacteroidetesが少ないことを報告しました。さらに,その肥満者の糞便を無菌マウスに投与するとそのマウスは肥満となり,痩身者の糞便を無菌マウスに投与するとそのマウスは痩せたままであり,腸内細菌が疾患発症の原因の1つであることが示されました。それを受けて代謝領域で一躍注目が集まり,医学研究が活発になったという歴史があります。循環器領域でもその後を追うように研究が始まりましたが,腸内細菌に介入して循環器疾患を治療する方法はまだ見つかっていないというのが現状です。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。