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特集 腸内細菌と循環器疾患

臨床 心不全と腸内細菌叢

嵯峨亜希子赤澤宏

CARDIAC PRACTICE Vol.29 No.4, 33-37, 2019

日本人の死因において,心疾患は1985年に脳血管疾患に代わり第2位となり,その後も死亡数・死亡率ともに増加傾向が続き,厚生労働省が発表した平成26年人口動態統計月報年計1)では全死亡者に占める割合が15.5%と報告されている。なかでもさまざまな心疾患の最終的な病態は心不全であり,日本における心不全による死亡者数は年間6万人を超える。日本においては,生活習慣の欧米化による高血圧,高脂血症,糖尿病の罹患率上昇が冠動脈疾患数を増加させ心不全患者数増加の一因になるとともに1)2),社会の急激な高齢化も心不全患者数を増加させる。高齢者は食欲や消化管機能の減退,筋肉量の減少,活動度の低下によってフレイルやサルコペニアのような病態に陥りやすく,これらは心不全の予後不良因子となりうる3)。さらに心機能の保たれた心不全(heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)も増加の一途を辿っている4)。世界的にみても近年心不全患者数は急速に増加傾向であり,その推定患者数は約2,600万人ともいわれており5),その死亡率も高く,慢性心不全患者では5年死亡率が50%を超えるとの報告もある6)。これらのことからも,心不全は世界的にみても重要な疾患であり,さらなる病態解明および新たな治療の発見が望まれ続けている。
1980年代以降,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(renin-angiotensin-aldosterone system:RAAS)や交感神経系などの神経体液性因子の過剰な活性化を遮断する薬物治療によって心不全患者の予後を改善させることに成功し,以後,心筋を標的としたさまざまな研究がなされ,心筋細胞の肥大化,機能不全に関する分子機序が解明されてきた。しかし,心不全の予防や治療にまでつながったものはごくわずかであった。つまり心筋のみを標的とした研究だけではなく,心臓と他臓器との臓器連関ネットワークの理解および解明をもとにした新たな治療戦略が必要とされている。
近年,次世代シークエンシング技術の進歩によって腸内細菌叢のゲノムの網羅的な解析が可能となり,腸内細菌叢が宿主の恒常性維持に重要な役割を果たしていることが消化管疾患はもちろんのこと,肥満や糖尿病などの代謝性疾患,喘息などのアレルギー疾患,乾癬などの炎症性疾患,さらには自閉症などの神経性疾患においても解明されてきており7)8),心不全の病態へも深くかかわっているのではないかと考えられ始めている。
「KEY WORDS」腸上皮障害,TMAO,短鎖脂肪酸,臓器連関,dysbiosis

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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