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目でみるページ Cardiovascular Pathology

動脈硬化病変の病理と発症仮説

加藤誠也

CARDIAC PRACTICE Vol.29 No.4, 7-12, 2019

がんは遺伝子の病気であり,動脈硬化は血管壁に生じる慢性炎症であるという理解に落ち着きつつあるように思われるが,腫瘍にしても粥状硬化にしても実際に観察される病変組織像はきわめて多彩である。局所では病変の主体をなす細胞(がん細胞や血管壁細胞)が周囲の間葉系細胞(支持組織や免疫担当細胞)との相互作用をもち,先天的あるいは後天的に獲得された宿主の全身的な特性ともかかわり合って複雑な病変が形成され,翻って宿主全体に深刻な影響をもたらす。エジプトをはじめ古代人のミイラにも血管壁の石灰化が見出されているが1),「動脈壁が硬く肥厚した状態(hardening of the arteries)」を動脈硬化(arteriosclerosis)として記載したのはLobstein(1835)とされる。古代ギリシアの医典に粥状物質を含有する嚢胞性病変の総称としてatheromaの記載があるが,この言葉を血管病変にはじめて用いたのはMarchand(1904)とされ,atherosclerosisはすなわちmushy and hard arteriesであり,ギリシア語のathereはmush,gruelないしporridgeを意味する2)3)。なお現在,単に動脈硬化(arteriosclerosis)といえば,その代表的な組織病型である粥状硬化(atherosclerosis)を指すのが通例であり,本項でも特にことわりのない場合は同義語として使用したい。動脈硬化はいつ頃からどのようにして発症するのか? 医学的,病理学的に論じられるようになったのはRokitanskyやVirchowの活躍した19世紀半ば以降であり,その後,発症病理に関する諸学説も多く登場した。これらの諸学説はいずれも仮説(hypothesis)と称され,各世代の研究を牽引し,またコレステロール学説とスタチンの登場のように医療現場に劇的な変化をもたらしたものもあれば,他説に取り込まれたり,あまり顧みられなくなったものもある。これらの諸説に述べられる機序には動脈硬化の発症病理を普遍的に説明するには及ばないものであっても,さまざまな様相の病変の成り立ちをよく物語っているように思われるものもある。今回は実際の症例に観察された動脈硬化の組織像をみながら,代表的な発症仮説について振り返ってみたい。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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