1994年にScandinavian Simvastatin Survival Study(4S)によって報告されて以来1),これまでに数多くの一次予防,あるいは二次予防症例に対して,HMG-CoA還元酵素阻害薬,すなわちスタチンによる予後改善効果に関するエビデンスが構築されてきた。スタチンは主に低比重リポ蛋白質コレステロール(low density lipoprotein cholesterol:LDL-C)値低下作用を有し,4Sをはじめ多くの大規模介入試験により,プラセボに比して心筋梗塞を含む虚血性心疾患,虚血性脳卒中,突然死を含む心血管死亡を抑制することが明らかにされた。Cholesterol Treatment Trialists(CTT)collaboratorsによるメタ解析によれば,スタチンは上記心血管イベントを合わせた複合エンドポイントだけでなく,個々のエンドポイントの発生を抑制する効果を有し,さらには性別・年齢・心血管疾患の既往の有無(一次予防・二次予防)・糖尿病の有無・高血圧の有無・喫煙歴の有無・高比重リポ蛋白質コレステロール(high density lipoprotein cholesterol:HDL-C)値・腎機能低下の有無にかかわらず予後を改善すると報告されている2)。さらに,Treating to New Targets(TNT)試験をはじめとした低用量に対する高用量のスタチンの予後改善効果を検討する複数の大規模試験(more vs. less intensity statin trials)とCTT collaboratorsによるメタ解析により,高用量スタチンが低用量スタチンよりもイベント抑制効果が強いことが明らかにされた3)。このように,スタチン,なかでも高用量スタチンの抗動脈硬化作用は明確なエビデンスとして確立され,LDL-Cは低ければ低いほど良い,すなわちthe lower,the betterというコンセプトのもと,欧米のガイドラインでは積極的な高用量スタチン内服が推奨されてきた4)5)。しかしながら,それら欧米のガイドラインも,ガイドラインの背景となっているエビデンスも,ほぼ欧米で行われた大規模臨床試験により形作られたものであり,アジア人,特に日本人を含む東アジア人に関するエビデンスは十分でない。米国[米国心臓協会(American Heart Association:AHA)/米国心臓病学会(American College of Cardiology:ACC)ガイドライン], あるいは欧州のガイドライン[欧州心臓病学会(European Society of Cardiology:ESC)ガイドライン]におけるアジア人に関する記述はきわめて少なく,単に“Lower doses than those used in the trials may be appropriate in Asian countries”5)あるいは“Asian ancestry”には“appropriate statin and dose”を選択するように4),という記述がされているのみである。これまでにわが国で行われた最大規模のスタチンによるイベント試験は,Management of Elevated Cholesterol in the Primary Prevention Group of Adult Japanese(MEGA)試験であり,一次予防症例に対する低用量プラバスタチンのイベント抑制効果を示した6)。また,エゼチミブや抗proprotein convertase subtilisin/kexin type 9(PCSK9) 抗体の登場とともに,実際にLDL-Cを0mg/dL近くにまで低下させることが可能になり,LDL-Cをどこまで,どのように,どの症例で低下させる必要があるか,という議論が熱を帯びている。
しかしながら,ハイリスク,あるいは二次予防症例に対するスタチンの効果,高用量あるいは低用量の有効性の比較,あるいは欧米のガイドラインが示すようにアジア人に対しては低用量で心血管イベントを抑制しうるかは,わが国における動脈硬化性疾患治療における最大の疑問であり,懸案であった。そのため,東アジア人,特に日本人におけるエビデンスの構築への期待はきわめて高かった。その期待に応える形で2016~2017年にかけ,日本人における脂質低下療法の有効性に関する介入試験が続けて学会発表され,わが国のみならず世界から大きな注目を集めた。まず,日本人の急性冠症候群症例におけるエゼチミブのスタチンへの上乗せ効果を検討したHIJ-PROPER試験,つづいて糖尿病性網膜症を有する一次予防症例に対する,薬剤を限定しないtreat-to-targetでLDL-Cのコントロール効果を検討したEMPATHY試験,さらには,わが国史上最大規模の前向き介入試験で高用量スタチンの低用量スタチンに対するイベント抑制効果を二次予防症例で検討したREALCAD試験である。この3つの試験は,ほぼ時を同じく行われ発表されたが,日本人における予想を上回る低率なイベント発症のために試験デザインや遂行自体にも工夫が必要であったが,それぞれの試験にきわめて意義深い結果を得ており,わが国の循環器臨床に与える多大な影響はもとより,世界のガイドラインにも今後反映されていくものと考えられる。
本稿では,上記に挙げたEMPATHY,REAL-CAD,HIJ-PROPER試験の概要と結果に触れながら,わが国における今後のLDL-Cあるいは脂質異常治療の方向性についても考察を加えたい。
「KEY WORDS」EMPATHY,REAL-CAD,HIJ-PROPER
しかしながら,ハイリスク,あるいは二次予防症例に対するスタチンの効果,高用量あるいは低用量の有効性の比較,あるいは欧米のガイドラインが示すようにアジア人に対しては低用量で心血管イベントを抑制しうるかは,わが国における動脈硬化性疾患治療における最大の疑問であり,懸案であった。そのため,東アジア人,特に日本人におけるエビデンスの構築への期待はきわめて高かった。その期待に応える形で2016~2017年にかけ,日本人における脂質低下療法の有効性に関する介入試験が続けて学会発表され,わが国のみならず世界から大きな注目を集めた。まず,日本人の急性冠症候群症例におけるエゼチミブのスタチンへの上乗せ効果を検討したHIJ-PROPER試験,つづいて糖尿病性網膜症を有する一次予防症例に対する,薬剤を限定しないtreat-to-targetでLDL-Cのコントロール効果を検討したEMPATHY試験,さらには,わが国史上最大規模の前向き介入試験で高用量スタチンの低用量スタチンに対するイベント抑制効果を二次予防症例で検討したREALCAD試験である。この3つの試験は,ほぼ時を同じく行われ発表されたが,日本人における予想を上回る低率なイベント発症のために試験デザインや遂行自体にも工夫が必要であったが,それぞれの試験にきわめて意義深い結果を得ており,わが国の循環器臨床に与える多大な影響はもとより,世界のガイドラインにも今後反映されていくものと考えられる。
本稿では,上記に挙げたEMPATHY,REAL-CAD,HIJ-PROPER試験の概要と結果に触れながら,わが国における今後のLDL-Cあるいは脂質異常治療の方向性についても考察を加えたい。
「KEY WORDS」EMPATHY,REAL-CAD,HIJ-PROPER