最近の医療においては,ある治療介入をするにあたって,その根拠となるエビデンスの存在が必須のものとなりつつある。動脈硬化性疾患の治療についても,その例外ではない。もちろん,あらゆる疾患に対するあらゆる治療について,その正当性や妥当性,あるいは有効性を示したエビデンスがあるわけではない。エビデンスの構築には,一定の限界があるからである。その限界とは,①エビデンスの重要性が叫ばれたのが比較的最近であることから,long termのoutcomeについて検証した試験が少ないこと,②対照群も基礎的状態についてそれなりの管理がなされていることが多く,介入群の効果が対照群に比し有意な有効性を得るためにはかなりのエントリー数が必要であること,③それに伴い,巨額の予算が必要であること,④医師主導型研究が推奨される中,一方で平成30年4月より臨床研究法が施行され質の高いエビデンスが構築されることが期待されるものの,研究者の負担がますます高まり,大規模な臨床試験遂行の敷居が高くなる可能性があること,⑤ジェネリック医薬品が発売されてしまうと企業側の試験遂行に対するモチベーションがほとんどなくなること,⑥欧米で行われた試験は人種や用量が異なるため日本人に適応しづらいと考えられていて,わが国独自のエビデンスがしばしば求められていること,などが挙げられる。そのため,より小規模で短期間にその治療介入の効果をみることのできる臨床試験が求められている。その1つの方法として,endpointをclinical outcomeではなく,clinical outcomeへの効果までをも高い確度をもって推し量ることのできる何らかの検査の指標で代用するという方法が考えられ,そのマーカーをsurrogate marker(サロゲートマーカー)と呼んでいる。本稿では冠動脈プラーク量を最も正確に測定することのできる血管内エコー(intravascular ultrasonography:IVUS)によって得られるプラーク退縮のマーカーが,動脈硬化性疾患,特に冠動脈疾患についてのclinical outcomeのサロゲートマーカーになるのかについて論じてみる。
「KEY WORDS」脂質低下療法,冠動脈プラーク,プラーク退縮,血管内エコー法(IVUS),サロゲートマーカー