わが国では脳卒中(脳出血・くも膜下出血・脳梗塞など)は死亡原因の第4位(2016年)であり,65歳以上の要介護者の原因としては第1位(2013年)の疾患である。わが国の高齢化に伴い今後ますます脳卒中患者は増加していくものと推定されている。脳卒中は一旦発症すると,後遺症を残すことはもちろんのこと死亡する例も多いため,急性期における治療が問題となってくる。多くの脳梗塞患者は急性期に高血圧を合併しており,遺伝子組み換え組織プラスミノゲン・アクティベータ(rt-PA,アルテプラーゼ)静脈内投与による治療の際の血圧管理も重要である。脳卒中急性期の血圧上昇の理由についてもさまざまな仮説が存在し,脳卒中による身体的および精神的ストレス,膀胱内の尿の充満,嘔気,痛み,以前から存在する高血圧,頭蓋内圧亢進などによる2次的な影響などの可能性が示唆されている。ゆえに,多くの例では安静,導尿,疼痛コントロール,脳浮腫の治療などを実施することによって積極的な降圧療法をせずとも自然に降圧することも多い。しかしそれでもさらなる降圧が必要なケースも存在するが,降圧を行う際には十分な注意を払う必要がある。というのは,脳卒中急性期には脳血流の自動調節能自体が障害されており,わずかな血圧の下降によっても脳血流は低下する危険性があるとされているからである。降圧を行う際には,脳血流が低下することで,脳に虚血性変化を合併する可能性があることを常に念頭に入れておく必要がある。ここでは脳卒中急性期の降圧治療に焦点を当てて解説していく。
「KEY WORDS」脳卒中,急性期,降圧治療