<< 一覧に戻る

特集 再生医療・遺伝子治療

トピック 肺高血圧症治療の最前線

荻原義人山田典一伊藤正明

CARDIAC PRACTICE Vol.28 No.3, 57-62, 2017

肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)は,血管攣縮,慢性炎症,血栓形成などにより,末梢肺動脈の増殖性狭窄や閉塞といった肺血管のリモデリングを進行性に来たし,その結果,肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)を呈した病態であり,最終的には右心不全に至る。この20年間で多くの薬剤が開発・臨床応用され,生命予後が改善した。これらの薬剤は,プロスタグランジン-cAMP系,エンドセリン系または一酸化窒素(nitric oxide:NO)-cGMP(cyclic guanosine monophosphate)系に属し,いずれも肺血管拡張作用を有するため,肺動脈圧低下を期待して用いられる。しかし,PAH患者には若年例も少なくなく,5年あるいは10年程度の生存率を改善させるだけでは決して満足できるものではない。なかにはこれらの薬剤を併用しても,病態の進行を抑制できず,肺移植や死に至る重症例も存在する。
PAHは,遺伝的要因に加え,環境的・肺血管刺激的要因といった複合的要因(multiple hit theory)により,肺動脈の内皮細胞や平滑筋細胞の機能・増殖異常,および炎症・免疫異常を来たし発症することが明らかになってきた1)。そのため,上述の薬剤に加え,このようなさまざまな刺激因子の是正を図った治療法を開発,併用することにより,さらなる予後の改善が期待できる。また他疾患では,近年,遺伝子治療・組織再生治療の研究が活発に行われており,遺伝子疾患や不可逆的な進行疾患の要素をもつ本疾患に対しても,新たな治療戦略として期待できる。
「KEY WORDS」肺動脈性肺高血圧症,遺伝子治療,肺血管再生治療

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る