「はじめに」肥満は心不全発症の危険因子として知られているが,心不全発症後は逆に低体重が予後不良因子となることがさまざまな疫学研究により報告されている。これは肥満の逆転現象,obesity paradoxと呼ばれている。わが国で行われた臨床研究でも,Body mass index(BMI)が低値であるほど,心不全患者の予後が不良であることが報告されている(図1)1)。このような低体重と予後との関係には心臓悪液質(カヘキシー)が関与していることがいわれている。カヘキシーはギリシャ語で悪い状態を意味する言葉で,心不全に限った病態ではなく,癌,HIV,慢性閉塞性肺障害,慢性腎臓病などでもみられる病態である。慢性疾患に関連した食欲不振,炎症,インスリン抵抗性,蛋白同化/異化の異常,貧血などの因子が関与し,筋肉減少,脂肪の減少を来たし,その結果,体重減少,筋力の低下,身体活動能力の低下を来たす予後不良な症候群である2)。カヘキシーへの対策に確立された方法はないが,介入の第一歩として,栄養状態を適切に評価し,栄養管理を行うことが重要と考えられる。
「KEY WORD」Obesity paradox,カヘキシー,GNRI,CONUT,減塩・水分制限,補充療法