<< 一覧に戻る

急性冠症候群の最近の動向

トピックス ST上昇型急性心筋梗塞におけるβ遮断薬の意義

βBlockade after ST-Segment Elevation Acute Myocardial Infarction

小笹寧子

CARDIAC PRACTICE Vol.22 No.2, 17-21, 2011

はじめに
 現在の診療ガイドラインでは,ST上昇型急性心筋梗塞患者へのβ遮断薬の投与が推奨されている。しかしながら,発症早期に経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention : PCI)を施行されたST上昇型急性心筋梗塞患者におけるβ遮断薬の有効性を支持するエビデンスは乏しい。本稿では,ST上昇型急性心筋梗塞患者におけるβ遮断薬のエビデンスについて概説し,β遮断薬投与の現状,さらに問題点と将来の展望を中心にわれわれの知見を述べる。

KEY WORDS
ST上昇型急性心筋梗塞,β遮断薬,PCI,予後

主な略語
PCI:percutaneous coronary intervention(経皮的冠動脈形成術)
RCT:randomized controlled trial(ランダム化比較試験)

歴史的考察

 急性心筋梗塞患者に対するβ遮断薬の歴史は1965年のSnowらによるパイロット研究に端を発する1)。この研究では発症後24時間以内の急性心筋梗塞患者全91例をプロプラノロール投与群(45例)と対照群(46例)に交互に割り付け,28日間の院内死亡率を観察した。その結果,対照群では16例(35%)の心血管死亡が観察されたが,プロプラノロール群では7例(16%)に留まり,プロプラノロール投与により生命予後が改善したと報告された。その後1980年代に行われた大規模ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)において,急性心筋梗塞患者への発症早期のβ遮断薬の投与は急性期および長期予後を改善させることが示された(表1)2)-6)。

これらのRCTの集大成として行われたメタ解析の結果もβ遮断薬の有効性を支持するものであった7)。また,1998年には米国でのCCP(cooperative cardiovascular project)大規模レジストリー研究が発表され,β遮断薬が二次予防に有効であったと報じられた8)9)。これらの報告を根拠として,2000年を迎える頃にはβ遮断薬は急性心筋梗塞患者の予後改善のための必須の薬剤として推奨されるようになった。β遮断薬の有効性の主な機序は,その抗虚血作用にあると考えられている。β遮断薬は心拍数・血圧・心筋収縮性の低下により心筋酸素需要を低下させる。また,心拍数低下により拡張期時間が延長する結果,冠血流量が増加する。β遮断薬は梗塞領域の拡大を抑制し,急性心筋梗塞に伴う合併症や再梗塞の発生および致死性不整脈を減少させると考えられている。
 しかし,急性心筋梗塞患者におけるβ遮断薬の有効性が報じられた1900年代後半はまだPCIは行われておらず,現在では一般的に用いられているスタチンやアスピリン投与もほとんど行われていなかった。これら併用治療が大きく異なる時代において,観察された死亡率は現在よりもかなり高く,過去の研究結果をそのまま現在の診療に当てはめることは適切とはいえないだろう。

最近のエビデンス

 2000年以後に急性心筋梗塞に対するβ遮断薬の有効性を示した報告は心機能低下例を対象とするものに限定され,ST上昇型急性心筋梗塞におけるβ遮断薬の意義について再び疑問が投げかけられている(表2)10)-14)。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る