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CIBIS-ELD

猪又孝元

CARDIAC PRACTICE Vol.22 No.1, 83-85, 2011

はじめに
 わが国は,世界に類を見ない急速なスピードで超高齢者社会へ突入した。「老人病」としての疾患群が著しく増加し,今後もその一途を辿るであろう。この30年あまり,慢性心不全では長期予後が重要視され,大規模臨床試験という手法を用いて新たな知見を生み出してきた。β遮断薬(BB)に限っても,延べ2万人以上に及ぶ対象者を用いて研究が繰り返され,国内外のガイドラインに反映されている。しかしながら,心不全診療の主役たる高齢者では推奨治療の遵守率が低く,問題視されている。高齢者を対象とした治療効果のエビデンスがほとんどない,合併症や忍容性の問題で投与や増量をためらう場合が少なくない,という背景があろう。
 高齢者心不全でのBBの忍容性については,これまで唯一検討されたのがCOLA Ⅱ試験1)である。高齢になるほど優位にカルベジロールの忍容性は低下したが,忍容率はいずれも75%を上回り,良好な忍容性があると結論付けた。しかし,非盲検下試験であり,推奨用量の1/4に過ぎない目標量を忍容性の判断基準においた点が批判を浴びている。そこで,BBの最大推奨量を標的とし,高齢者心不全例での忍容性を二重盲検下で検討した初めての大規模臨床試験がCIBIS-ELD試験2)3)である。

CIBIS-ELD試験の概要

 本試験の最終結果は,現時点で論文化されていない。したがって,Düngenが2009年にESC Heart Failure Congress(仏・ニース)で発表した内容を要約する形でまとめる。

1.方法

 NYHA心機能分類2度以上で,65歳以上の安定した心不全患者を対象とした。対象は,左室駆出率(LVEF)≦45%もしくは拡張機能障害ステージ≧1で,BBの投与歴がないか,投与されていても標的量の25%以下を条件とした。これら対象を,無作為にビソプロロール群とカルベジロール群とに割り付け,それぞれ10mgおよび50mgを標的量として2週間毎の倍増法にて漸増させ,12週間の忍容性を一次エンドポイントとして前向きに検討した。「忍容性あり」とは,漸増スケジュール通りに標的量を達成し,最終訪問日までに標的量を最低10日間維持できたこと,と定義された。なお本試験は,ドイツと東欧の4ヵ国から計55施設が参加した国際多施設研究である。

2.結果

 対象は計876名で,平均73歳,38%が女性であった。平均LVEFが42%で,LVEF>50%の拡張期心不全は22%存在した。NYHA心機能分類は2度が66%,3度が30%と,軽症~中等症の心不全が対象となった。
 まず,一次エンドポイントである「忍容性あり」に至った症例は,わずか25%に過ぎなかった。2剤間で,忍容性の違いに有意差はみられなかった(図1-A)。

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