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ガイドラインに基づいた心不全の非薬物療法

ガイドラインに基づいた治療戦略 心臓再同期療法(CRT)

Evidence-based Indication of Cardiac Resynchronization Therapy

相庭武司鎌倉史郎

CARDIAC PRACTICE Vol.22 No.1, 21-28, 2011

はじめに
 心不全患者では心筋の電気(興奮)―機械(収縮)の非同期性により心室の有効な収縮が得られず,左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)が一層低下することが多い。最も頻度の多い非同期性障害としては心房―心室伝導の遅延(Ⅰ度AV block)と,左脚ブロックに代表される心室内の伝導障害が挙げられる。心室内伝導の延長(QRS幅の増大)は左室の前壁―側壁間の壁運動の非同期性(dyssynchrony)をもたらし,心室の収縮機能を低下させると同時に心筋代謝を悪化させ,僧帽弁逆流,心室の拡大等リモデリングをもたらす。心不全患者の約1/3に認められるQRS幅の増大とdyssynchronyは心不全の増悪や突然死,総死亡等予後予測因子として重要である1)。

 心臓再同期療法(CRT)は,右室と左室を同時にペーシングすることによって心室壁の同期不全を修正し,心血行動態の改善を図る治療である。CRTによって心不全の症状や運動耐容能のみならず生命予後も改善することが報告され2)3),米国では2001年に米国食品医薬品局(FDA)が承認して以来急速に普及し,心不全の非薬物療法の中心的役割を担うようになった。わが国では2006年に保険償還されて以来,dyssynchronyを有する心不全患者に対する治療法の1つとして普及しつつある。またCRTに植え込み型除細動器(ICD)機能を搭載したCRT-Defibrillator(CRT-D)も使用可能となり,心不全と突然死の両方を治療する機器として植え込み例数が増えている。本稿ではガイドラインに基づいたCRT/CRT-Dの適応と最近のエビデンスについて解説する。

KEY WORDS
心臓再同期療法,心不全,突然死,ペーシング,予後

主な略語
CRT:cardiac resynchronization therapy(心臓再同期療法)
LVEF:left ventricular ejection fraction(左室駆出率)
ICD:implantable cardioverter defibrillator(植え込み型除細動器)
NYHA:New York Heart Association(心機能分類)
AF:atrial fibrillation(心房細動)

CRT/CRT-Dの適応について

 2002年に発表されたMIRACLE(Multicenter InSync Randomized Clinical Evaluation)試験では,CRT植え込み6ヵ月後においてNYHA(New York Heart Association)機能分類,6分間歩行距離,QOLスコア等が両室ペーシング作動時に著しく改善することが示された2)。さらに2005年に発表されたCARE-HF(Cardiac Resynchronization-Heart Failure)試験では,同様の心不全患者(NYHAクラス Ⅲ~Ⅳ度,LVEF≦35%,QRS幅≧120msec)を通常の薬物治療群とCRT群に無作為割り付けし予後を比較した結果,CRTはQOLや心不全による入院率を改善するのみならず,生命予後も改善することが示された(図1A)。

また,CRTが従来の薬物治療に併用しても十分その効果が発揮されることも証明された3)。
 心不全患者の死因の約40%は突然死といわれるように,心不全のみならず致死性不整脈の克服は重要な課題である。1999~2001年に米国とカナダで行われたMIRACLE-ICD試験では,MIRACLE試験と同様の中等~重度の心不全かつ致死性不整脈のハイリスクの患者をICD群とCRT-D群に無作為割り付けし比較している。その結果,CRT-D群ではQOL,NYHAクラス機能分類,運動耐容能といった心不全の指標が有意に改善し,催不整脈作用等はないことが示され,ICDの適応となるような致死性不整脈を有する心不全患者にも両室ペーシング機能が有効とされた4)。
 ではペースメーカー機能のみのCRTとCRT-Dのどちらを選ぶべきか?CARE-HF試験のサブ解析からは,CRTは心不全死のみならず突然死も減少させることも示唆された(図1B,C)5)。またCRT導入直後から心室性不整脈の数が減少し,特にCRTの有効例(responder)でその減少が顕著であったとの報告もある6)。一方,中等~重度の心不全患者をCRT群またはCRT-D群に無作為割り付けし予後を比較したCOMPANION(Comparison of Medical Therapy, Pacing, and Defibrillation in Heart Failure)試験ではCRT群よりもCRT-D群の方がわずかではあるが生命予後が改善されることが示されている(図2) 7)。

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