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用語解説

hospital acquired hyponatremia

五十嵐隆

栄養-評価と治療 Vol.29 No.4, 54-56, 2012

POINT
小児の急性発熱性疾患,呼吸器感染症,中枢神経疾患などでは抗利尿ホルモン(ADH)分泌が亢進しうる。このときに,低張液を急速静注したり,Holliday-Segarの計算式から導き出された1日水分必要量を低張液にて輸液すると,重篤な低Na血症を引き起こすことがある。そのためこのような病態には,低張液を急速静注しない,Holliday-Segarの計算式から導き出された1日水分必要量の3分の2程度に輸液投与量を絞ることが,低Na血症発症の予防となる。

Ⅰ はじめに

 脱水症の治療として,低張液を用いた初期輸液を行い,その後維持輸液としてHolliday-Segarの計算式から導き出される1日必要水分量を輸液することにより,重篤な低Na血症を引き起こすことが報告されている。これをhospital acquired hyponatremiaまたはhospital induced hyponatremiaと呼ぶ1)2)。血漿が高浸透圧状態になっていないにもかかわらず,さまざまな疾患や病態により脳下垂体からの抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone;ADH)の分泌が亢進している患者に対して,初期輸液として低張液を急速静注したり,維持輸液として低張液を水分制限せずに必要水分量を投与することが原因である。これはつまり病態に応じた輸液を行わなくてはならないにもかかわらず,プロトコール通りの輸液を行うことによって生じる結果であり,小児への輸液治療を実施する際には注意しなくてはならない事態である。

Ⅱ Hospital acquired hyponatremiaとは?

 わが国では脱水症や呼吸器感染症などで入院した患児に,自由水(溶質を含まない水のことで,不感蒸泄される水や,血清Na濃度よりもNa濃度の低い尿に希釈された水に相当する)を考慮して低張液(Na濃度が135mEq/ℓよりも低い液)を用いて輸液を行うことが多い。実際にはソリタ®-T1号輸液(Na90mEq/ℓ)にてはじめの数時間輸液し,患児の顔色が改善し利尿がみられたらソリタ®-T2号輸液(Na84mEq/ℓ)で翌日まで輸液し,脱水が改善してからはソリタ®-T3号輸液(Na35mEq/ℓ)に変更する方法が広く用いられている。欧米では,必要水分量と必要電解質量とを計算して輸液組成を決めて輸液を行うが,結果的に用いる輸液の電解質組成はわが国で用いられる製剤とほぼ同じとなる。
 トロント小児病院では,入院時に低Na血症(血清Na値136mEq/ℓ未満)のない患児1,490名に低張液による輸液療法を行ったところ,40名(2.7%)に低Na血症をきたした1)。うち2名に重篤な中枢神経障害が残り,1名が死亡した。低Na血症となった理由は,低張液を用いてHolliday-Segarの計算式から導き出される1日必要水分量を輸液したためで,血清Na値が136mEq/ℓ未満の小児には低張液を使用するべきではないとしている。その後も同様の報告があり,輸液を行うことによる低Na血症の発生に対して医療側が敏感な状況になっている2)。
 重篤な低Na血症(血清Na値125mEq/ℓ以下)は脳浮腫をきたし,脳内圧を上昇させ,痙攣,意識障害などの中枢神経障害や脳ヘルニアによる死亡の原因となる。基礎疾患の重篤さに最も影響を受けるものの,入院時の血清Na濃度が低値である患者ほど一般に死亡率が高い3)4)。したがって,重篤な低Na血症はmedical emergencyであり,その治療法について議論されているだけでなく,その予防法についてもさまざまな議論がみられる。

Ⅲ Hospital acquired hyponatremiaの原因について

1.Nonosmotic stumuli to ADH secretion

 ADHは主として血漿の高浸透圧状態(ほとんどは高Na血症)の際に脳下垂体後葉から分泌され,腎集合管にて水を再吸収し水の保持を行う。一方,高浸透圧血症以外にもさまざまな病態が非浸透圧性ADH分泌刺激(nonosmotic stumuli to ADH secretion)になる(表1)。

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