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ICU患者の栄養管理

重症病態に対する栄養管理の実際 (2)重症感染症

Sepsis

山田知輝清水健太郎中村洋平小倉裕司

栄養-評価と治療 Vol.29 No.4, 41-44, 2012

SUMMARY
重症感染症に対する栄養管理は,免疫能を保持するうえでもきわめて重要と考えられるが,いまだ十分に確立されていない。早期の経腸栄養が好ましいとされるが,目標カロリーの推定も依然困難であり,また経腸栄養開始当初から全量を投与することは予後を悪化させるとの報告もみられる。さらに,治療中に腸管蠕動不全が生じやすく,経腸栄養投与に支障をきたすだけでなく,しばしば重篤な全身合併症に至る。崩壊した腸内細菌叢に対する腸管内治療としては近年プロバイオティクス療法などが注目されている。

KEY WORDS
■敗血症(sepsis)  ■SSCG2008  ■ESPEN経腸栄養ガイドライン ■ASPEN/SCCM急性期栄養ガイドライン ■栄養投与量 ■プロバイオティクス療法

Ⅰ はじめに

 感染症に限らず,全身へ大きな侵襲が加わると,生体が必要とするエネルギーに加え,免疫応答や創傷治癒に必要なエネルギーを得るために,生体内では蛋白異化が亢進する。特に敗血症(sepsis)に対する栄養管理は免疫能の維持・改善,損傷組織や臓器の回復という観点からもきわめて重要である。Sepsisの治療ガイドラインとしては,2008年に改訂されたSurviving Sepsis Campaign Guideline(SSCG)2008 1)が広く用いられるが,早期経腸栄養などの栄養療法についてはほとんど記載がない。一方,重症病態における栄養管理に関しては,欧州静脈経腸栄養学会(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism;ESPEN)が2006年に発表した経腸栄養ガイドラインの集中治療に関する項2)(以下,ESPENガイドライン)や,米国静脈経腸栄養学会(American Society for Parenteral and Enteral Nutrition;ASPEN)と米国集中治療医学会(Society of Clitical Care Medicine;SCCM)が共同で2009年に発表した重症患者向け急性期栄養ガイドライン3)(以下,ASPEN/SCCMガイドライン)がある。
 本稿では,sepsisに対する栄養療法に関する最近の知見について解説するが,血糖管理や免疫強化栄養については他稿に譲る。

Ⅱ 栄養投与経路について

 Sepsis患者の栄養投与経路に関して,経腸栄養が経静脈栄養に比較して腸管粘膜の維持4),主に腸管関連リンパ組織(gut associated lymphoid tissue;GALT)を介する腸管免疫5),バクテリアルトランスロケーション6)とそれに引き続く多臓器不全の予防などに有効とされている。Sepsisのみを対象にした研究は存在しないが,重症患者を対象に経腸栄養と経静脈栄養を比較した研究のメタ解析では,経腸栄養を優先的に行うことにより感染症発生率および入院日数は減少し7),侵襲後24時間以内に経腸栄養を開始することで死亡率も低下することが示された8)9)。実際,重症病態において,ESPENガイドラインでは24時間以内に,ASPEN/SCCMガイドラインでは24~48時間以内に経腸栄養を始めることを推奨している。
 経腸栄養の投与経路を経胃ルートとするか,幽門後ルートとするかについても議論がある。幽門後ルートを用いると,胃食道逆流を有意に減じ,誤嚥性肺炎などの合併症を減らせるとの報告がある10)。しかしながら,2003年のシステマティック・レビューではすべての患者に幽門後ルートを用いることの優位性は示されず,経胃ルートでより早期に経腸栄養を開始すること,胃残渣量が増量すれば腸管蠕動亢進薬(メトクロプラミド,エリスロマイシン)を用いること,腹部手術などを行い,経胃ルートによる経腸栄養に対して不耐性がある患者には幽門後ルートを用いること,を推奨している11)。臨床では,経胃ルートで経腸栄養をまず開始し,腸管蠕動不全が生じたら幽門後までチューブ先端を進め継続することも可能である。

Ⅲ エネルギー投与量について

1.目標エネルギー投与量の設定

 Sepsis患者の安静時エネルギー消費量は,侵襲に対応して代謝亢進が増大する。至適投与量の評価は,間接熱量計を用いてリアルタイムに消費エネルギー量を測定するのが正確と考えられるが,適切な鎮静効果が得られていない場合や,酸素濃度が高い場合は不正確になる12)。実際には,Harris-Benedictの式に代表される消費カロリー予測式を用いることが多い。こうした至適投与量計算法は200以上存在しており,最適な計算方法はわかっていない。ESPENガイドラインでは男性25~30kcal/kg/日,女性20~25kcal/kg/日(回復期は25~30kcal/kg/日)かやや少ない程度,ASPEN/SCCMガイドラインでは男女とも25~30kcal/kg/日を推奨している。

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