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ICU患者の栄養管理

VAPと栄養管理

Nutrition support on preventing ventilator-associated pneumonia

海塚安郎

栄養-評価と治療 Vol.29 No.4, 27-31, 2012

SUMMARY
ICUにおける呼吸管理,特に挿管下人工呼吸管理の精度向上は重要な課題である。管理中の人工呼吸器関連肺炎(VAP)は,生命予後を悪化させる忌むべき合併症であり,ICUにおける病院感染対策の主要な対象である。その予防にはICU入室時からの総合的な管理が重要であり,各種対策を組み合わせたものがVAPバンドルとして理解されている。VAP対策としての栄養管理では特に早期経腸栄養が重要であり,それによる栄養状態,生体免疫能の改善以外に,消化管機能に由来する唾液分泌による口腔内浄化,腸管蠕動促進による消化管内細菌の口側への逆流回避,蠕動に伴う横隔膜可動性の改善による喀痰促進などが見込まれ,重要な対策法となる。

KEY WORDS
■人工呼吸器関連肺炎(VAP)  ■早期経腸栄養 ■挿管チューブ ■腸内細菌叢 ■内因性感染

Ⅰ ICUにおける呼吸管理とその合併症

 ICU入室の目的は大きく分けて2つある。1つは,重症患者の原疾患治療のため生命および重要臓器の機能を維持し,時間稼ぎを行う場(=管理)を提供することであり,もう1つは,侵襲の大きな外科手術の術後患者の管理および重点観察である。そのような症例に対し,必要に応じて呼吸,循環,体液,電解質,代謝栄養管理が行われ,これらの管理に伴うリスクマネージメント,合併症対策こそICUの重要な役割である。

1.VAPの定義と問題点

 呼吸管理,なかでも挿管下人工呼吸管理中の最も忌むべき合併症が人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia;VAP)である。VAPは,人工呼吸管理開始前には肺炎がみられないことが条件となり,気管挿管による人工呼吸開始48時間以降に発症する肺炎と定義されている。言い換えれば,挿管下人工呼吸管理に伴う挿管チューブ(もしくは気管切開チューブ),人工呼吸器回路による人工気道の要因,医療従事者の手指,患者内因性(口腔,気道,消化管)細菌の要因が,おのおの複合的に絡み合って起こる病院感染症である。当然その背景には,宿主の挿管下人工呼吸管理に至る病態に伴う免疫能,創傷治癒機転,咳嗽力の低下,過剰水分の肺環境(wet lung),下側肺障害,抗生物質使用による腸内細菌叢の構成変化,菌交代症などによる易感染状態などの問題がある。さらにVAPを合併すると結果として,死亡率や合併症発生率が増加するなどの問題が発生し,治療や管理をさらに困難にする。また,入院日数やICU滞在日数が延長するため,医療コストも増加すると指摘されている。

2.VAPの発症時期,頻度

 VAPは発症時期により大きく2つに分類される。気管挿管48~96時間以内に発症した肺炎を早期VAP(early-onset VAP),気管挿管96時間以降に発症した肺炎を晩期VAP(late-onset VAP)とし,early-onset VAPは,ICU入室時に上気道から採取した検体を培養した結果とよく相関しており,肺炎球菌,インフルエンザ菌,メシチリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin sensitive Staphylococcus aureus;MSSA)など抗生物質感受性菌が起炎菌であることが多い。一方late-onset VAPは,緑膿菌,アシネトバクター,メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus;MRSA)など抗生物質耐性菌であることが多いと報告されている。
 VAPの発生率は,調査方法やVAPの診断基準の違いにより,文献によってその報告にばらつきがあるが,一般には9~27%と考えられる1)。米国の9,030症例を対象にしたデータベースの報告では9.3%であった2)。また人工呼吸管理が1日増えるごとに,VAPの発生率が1~3%上昇するという報告3)4)もあり,長期人工呼吸管理においてはVAP合併の危険性が高まる。さらに,VAPの致死率は33~50%と高率である1)2)5)-7)。

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