<< 一覧に戻る

栄養療法に対する認識と期待

外科研究者からみたわが国と諸外国の栄養教育研究の現状と問題点

Present status of education and scientific research for metabolism and nutrition in Japan and other countries through the eyes of surgeons

櫻井洋一

栄養-評価と治療 Vol.29 No.3, 27-30, 2012

SUMMARY
生体の栄養・代謝のメカニズムを学び,研究を行うことは,外科系医師や救急科・ICU医師として活躍するうえで不可欠である。近年,周術期栄養管理に関するセミナーや静脈経腸栄養ガイドラインを通して,栄養・代謝の知識を容易に習得することが可能になったが,栄養管理の基礎となる栄養・代謝を総合的に学ぶ機会は十分でない。外科総論としての侵襲時の代謝・栄養,周術期感染症,周術期管理は,臓器別各疾患を学ぶと同様に重要であり,医学部教育に独立した科目としてさらに時間を設ける必要がある。さらに「創傷治癒,外科感染症と関連が深い代謝栄養学を基礎とした栄養治療は外科患者の臨床的アウトカムと密接に関連している」という概念を十分に理解する必要がある。外科系医師に対しては教育を行い,高い臨床能力とリサーチマインドを培い,質の高い栄養研究を行うことが重要である。

KEY WORDS
■外科総論 ■代謝栄養学 ■卒後教育 ■卒前教育 ■臨床研究

Ⅰ はじめに

 外科卒後教育として栄養・代謝を学び研究を行うことは,外科侵襲を受けた患者の周術期管理を行うために必須である。生体侵襲に対する代謝反応のメカニズムを理解してはじめて,適切な栄養管理による周術期管理と合併症予防・治療を行うことが可能となる。栄養・代謝は創傷治癒,外科感染症などと深く関連しているため外科総論の重要な部分を占めており,外科系医師にとっては日常の外科患者管理に直結している。最近では周術期栄養管理に関するセミナーやガイドラインが充実してきているが,栄養管理の基礎となる代謝栄養学を学ぶ機会がいまだ少ないといえる。
 本稿では,わが国や外国における代謝栄養学に関する卒前・卒後教育,さらに栄養教育研究の現状・問題点と対策について概説する。

Ⅱ 医学部卒前教育としての外科代謝・栄養に関する教育の現状

 文部科学省の推奨を受け,近年医学部カリキュラムの再編が行われた。再編の要点は診療科別から臓器別への再編であり,4~5年前より実施されている。代謝栄養学は3年時では消化器病学,4年時から臨床医学系の治療学といった科目に含まれている。従来は内科学・外科学といった科目分類で,消化器系に関して同一疾患に対し重複して教育が行われており非能率的であったが,科目再編により効率的な教育が行われるようになったことが利点として挙げられる。一方,臓器別による科目再編により外科総論が削除されたために,臨床に即した外科代謝・栄養学を独立した項目として学ぶ機会が減少したことが問題点として挙げられる1)。
 たとえば3年時では基本的診療知識,4年時には治療学が中心で,基本的治療や周術期医学の一部に輸液・静脈栄養・経腸栄養などといった栄養・代謝に関連する項目として含まれている。しかし創傷治癒や手術侵襲など,栄養・代謝・侵襲などに関連する項目は全体の10%以下であり,3年時の消化器病学のなかに含まれるこれらの項目に比較して,4年時における治療学のなかでの代謝栄養学の占める割合は十分であるとはいえない。すなわち外科総論に含まれる代謝栄養学は,独立した教育科目としては講義が行われておらず,代謝栄養学,外科侵襲学といったカテゴリーは存在しない。わが国の大学医学部では消化器病学,基本的治療,周術期医学などのなかで,断片的に栄養療法が取り上げられているにすぎない。すなわち基本的な治療学の一部として講義されているのみで,外科侵襲に対する生体反応メカニズムなどを含んだ代謝栄養学を総合的に学ぶ機会がない。代謝栄養学を修得するためにはエネルギー代謝に関連する生化学,生理学,臨床栄養治療学などの総合的な知識とそれらを基礎とした総合的な理解が要求されるため,現在の断片的な教育では不十分である。

Ⅲ 外科代謝栄養学に関する卒後教育の現状

 研修医は患者管理を行うために直ちに輸液,静脈栄養,経腸栄養の知識が必要となる。すべての疾患に関わり予後を決定する可能性の高い栄養管理であるにもかかわらず,現実には自分で関連のマニュアルを用いて勉強する,あるいは先輩から伝授された栄養管理を覚えるといった経験的な方法がほとんどである。研修医向けの代謝・栄養,栄養サポートチーム(nutrition support team;NST)に関する教科書やセミナーはあるものの,十分な基礎知識をもたないため興味を示す研修医は少ない。
 問題は外科系研修の開始時点で,art(手術手技)とscience(代謝栄養学の基礎的理論と研究)がバランスよく教育されず,わが国ではartの習得を最優先された卒後教育が主流となっていることである。研修医が代謝栄養学・侵襲学に興味をもてない原因として①エネルギー代謝・侵襲時における生体変化・それらに対する治療がまとまった知識として理解・整理されていない,②手術のように目に見えた治療のアウトカムが代謝栄養学・栄養治療では直接的に見えにくく学ぶ必要性の動機付けにならないこと,などが挙げられる。しかしartとしての手術手技を十分に習得しても術後合併症発生はなくならないのが現実であり,周術期管理の重要性を認識すべきである。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る