周術期の代謝栄養管理─ERASプロトコールを巡って─
移植外科とERASプロトコール
ERAS protocol in transplant surgery
栄養-評価と治療 Vol.29 No.2, 48-51, 2012
SUMMARY
ERASプロトコールは術後早期回復を目指したプログラムであるが,移植外科は対極にある。しかし肝移植においても,ERASの概念の導入により早期回復を図ることは重要である。肝移植におけるERASプロトコールの3大必要条件は,適切な栄養療法,基礎体力の維持,感染対策であり,ERASプロトコール実践のカギは,外科医や看護師のみならず,栄養士,理学療法士,ICTなどを含む病院の総合力,すなわちチーム医療である。
KEY WORDS
■肝移植 ■ERASプロトコール ■栄養療法 ■チーム医療
Ⅰ はじめに
Enhanced Recovery After Surgery(ERAS)プロトコールは外科手術後の早期回復を目指したプログラムである。しかし移植外科においては,術前・術中・術後ともに早期回復阻害要因が多い。たとえば肝移植レシピエント手術においては,術前は非代償性肝硬変による低栄養・高度浮腫・筋力低下,術中は大きな手術創・高度侵襲・長時間手術,術後は大量輸液・多種のカテーテル留置など,ERASプロトコールと対極にある。しかし見方を変えれば,術後早期回復に向け周術期管理の改良の余地が最も多く残されている分野ともいえる。そこで京都大学医学部附属病院肝胆膵・移植外科では,ERASプロトコールを応用した肝移植周術期管理を行っているので紹介する。
Ⅱ 肝移植におけるERASプロトコールの導入
肝移植におけるERASプロトコール実践の3大必要条件は,適切な栄養療法,基礎体力の維持,感染対策である。
1.適切な栄養療法
肝移植患者の多くは非代償性肝硬変に伴う低栄養状態にある。しかし,各患者の栄養状態は一律ではない。そこで当科では,入院時に客観的な指標(体成分分析装置InBody720やプレアルブミンなど)で栄養状態を評価し,個々の栄養状態に応じた栄養療法,すなわちオーダーメード型栄養療法を導入している1)。また,欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)は,2006年にERASプロトコールの概念と臨床試験によるエビデンスに基づいた「臓器移植を含む腹部外科手術における経腸栄養のガイドライン」を発表した2)。当科では,このガイドラインや臨床試験によるエビデンスに基づき,新たな肝移植周術期栄養療法を施行している。
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。