第34回日本栄養アセスメント研究会発表演題より
肝硬変患者の就寝前軽食導入の指標についての検討
Parameters of Late evening snacks start in patients with liver cirrhosis
栄養-評価と治療 Vol.29 No.1, 37-40, 2012
SUMMARY
近年呼吸商の低下した肝硬変患者への就寝前軽食が推奨されている。呼吸商の測定には間接熱量計という高価な機器を使用するため,日常臨床で一般に行えない。そのため呼吸商の代替となるパラメータについて検討を行った。呼吸商に対し%AC,%AMCに相関が認められ,予後の指標となる呼吸商0.85に対するそれぞれの予測値は,%AC95%,%AMC92%であった。%AC,%AMCは呼吸商の代替指標として用いうると考えられた。
KEY WORDS
■ 就寝前軽食(LES) ■ 間接熱量計 ■ 呼吸商(RQ) ■ 上腕周囲長(AC) ■ 上腕筋囲(AMC) ■ tumor necrosis factor-α(TNF-α)
Ⅰ 目 的
肝硬変では蛋白・エネルギー低栄養状態(protein energy malnutrition;PEM)が高頻度に出現し,予後やQOLに影響を及ぼす1)。肝硬変患者におけるPEMの頻度を,エネルギー低栄養は間接熱量計,蛋白低栄養は血清アルブミン値によりそれぞれ評価すると,40%の患者がエネルギー低栄養状態,70%の患者が蛋白低栄養状態で,その両者を有するPEMは50%と報告されている1)。
肝硬変患者において間接熱量計によりエネルギー基質の燃焼比率をみると,糖質の燃焼低下・脂肪の燃焼亢進を認め,結果として呼吸商(respiratory quotient;RQ)の低下に陥る。このような栄養代謝パターンは,肝硬変の重症度の進展とともにより顕著に認められ,予後に影響を与える1)。このエネルギー代謝異常は,肝臓の萎縮によるグリコーゲン貯蔵量の低下に加え,インスリン抵抗性やグルカゴン・カテコラミン・コルチゾールなどの血中濃度の増加により,生理的なエネルギー基質としての糖質の利用効率が低下することによるとされている。
一方,RQの低下した患者への就寝前軽食(Late evening snack;LES)施行によって,RQ・肝機能・QOLの改善が報告2)されており,日本消化器病学会3)や厚生労働省のガイドラインでも推奨されている。しかしながら,RQの測定には間接熱量計という高価で特殊な機器が必要であるため,日常臨床で広く一般に行えない。
そのため今回,RQに代わり日常臨床において用いうる生化学的あるいは身体的パラメータについての検討を行った4)。さらに,食欲不振やエネルギー代謝に関与するサイトカインの腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor;TNF)-αやアディポカインのレプチン濃度についても検討した5)。
Ⅱ 方 法
岐阜大学医学部附属病院消化器内科入院中の肝硬変患者44例を対象とした(表1)。
年齢は平均66歳(38~83歳),男性28例,女性16例。肝硬変の病因としては,B型肝炎(hepatitis B virus;HBV)が1例,C型肝炎(hepatitis C virus;HCV)が33例,アルコール性が6例,その他の病因によるものが4例であった。また肝硬変の程度は,Child-Pugh分類においてChild Aが16例,Child Bが19例,Child Cが9例であった。入院時,肝細胞癌を合併していた患者は27例(61%),また分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acid;BCAA)製剤を内服していた患者は16例(36%)であった。
検査前夜18時の夕食後より絶食とし,検査当日の午前7~9時の安静臥床時に,間接熱量計を用いてRQを測定した。また同時に,各種血液検査(血算・アルブミン・総ビリルビン・総コレステロール・プロトロンビン時間・遊離脂肪酸・BCAA/チロシンモル比など)を行い,さらに熟練した管理栄養士により,身長・体重・体格指数(body mass index;BMI)・上腕周囲長(arm circumference;AC)・上腕三頭筋部皮下脂肪厚(triceps skinfold thickness;TSF)・上腕筋囲(arm muscle circumference;AMC)を測定した。なお,AC・TSF・AMCの各身体計測値は,『日本人の新身体計測基準値(Japanese Anthropometric Reference Data;JARD 2001)』6)をもとに,性別・年齢別に中央値を100%とするパーセント表記で記録した。以上のパラメータについて単回帰分析を行い,相関性を検討した。さらに,受信者動作特性曲線(receiver operating characteristic;ROC)解析を用いて,RQが0.85となるカットオフ値を検討した。なお,肝癌のないC型肝硬変患者24例にはTNF-α・レプチン濃度を測定した。
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。