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第34回日本栄養アセスメント研究会発表演題より

高度肥満患者における間接熱量測定の有用性について

Prediction of energy expenditure in severely obese patients

栗原美香山本寬佐々木雅也

栄養-評価と治療 Vol.29 No.1, 32-36, 2012

SUMMARY
高度肥満患者の消費エネルギーについて,実測値と現体重(BW),理想体重(IBW),調整体重(ABW)による推計式を比較検討した。その結果,BWを用いると過剰となることが確認された。IBWを用いて算出すると実測値より過少となる傾向があり,ABWを用いた算出方法が最も適切であると示唆された。一方,腹腔鏡下減量手術前後において,まったく代謝の変動は認められず,周術期の侵襲はほとんど加わらないことが明らかとなった。

KEY WORDS
■ 腹腔鏡下減量手術 ■ 高度肥満 ■ 安静時代謝エネルギー(REE) ■ 必要エネルギー量 ■ 間接熱量測定

Ⅰ はじめに

 肥満はいわゆる糖尿病,高血圧,動脈硬化を含むメタボリックシンドロームを合併(いわゆる肥満症)することが多い1)。さらに高度肥満になると,脂肪組織の重量過多による心不全,腎不全,運動器障害が問題となる2)。高度肥満とは,日本肥満学会が定める肥満3度以上,BMI35以上とされる3)。高度肥満患者の多くは,度重なるダイエットに挫折し,長期にわたる減量効果の維持が困難なケースが多く,95%以上がリバウンドを起こすとの報告もある4)。そこで1960年代より,欧米を中心に内科的治療抵抗性の高度肥満患者に減量手術が行われてきた。1990年代には腹腔鏡下手術が導入され,減量手術は急速に普及し,全世界で34万件以上行われている。滋賀医科大学医学部附属病院でも高度先進医療として,減量手術である腹腔鏡下袖状胃切除術(laparoscopic sleeve gastrectomy;LSG)を実施している。
 高度肥満の減量治療においては,エネルギー制限することが最も重要である。しかし,わが国において高度肥満患者のエネルギー所要量に関する報告は少なく,ケースバイケースで対応するとされている。Weijsらによると,体重増加に伴い,除脂肪体重は変化が少ないのに対して,体脂肪量は顕著に増加することが示されている5)。消費エネルギーは筋肉に影響されるが,体脂肪には寄与しにくいとされている6)。

Ⅱ 目 的

 高度肥満患者の必要エネルギー量については,間接熱量測定を用いて安静時代謝エネルギー(resting energy expenditure;REE)を実測する方法が最も正確であるとされている7)8)。しかしながら,間接熱量計は高価であり,その使用は特定の施設に限られているため,計算式を用いた必要エネルギー量の算出についての検討が必要である。そこで今回,高度肥満患者に間接熱量測定を用いてREEを実測し,計算式による必要エネルギー量と比較した。必要エネルギー量は,Harris-Benedict式を用いて基礎エネルギー消費量(basal energy expenditure;BEE)を算出した。この計算式は,男女別に年齢,身長,体重を用いて算出するものである9)。一般的に体重が標準以下の場合は現体重を用いるが,肥満がある場合,体重は理想体重を用いることが多い10)。高度肥満患者の多い欧米では,理想体重ではなく調整体重(adjusted body weight;ABW)を用いることもある。今回,当院でLSGを受けた症例に対し,これら3種類の体重を用いた計算式と実測値とを比較検討した。
 また,周術期にはエネルギー代謝が変動し,これをストレス係数として必要エネルギー量の算出に用いる。しかし,LSGの前後における短期間での代謝変動について検討した報告はない。そこで,高度肥満患者の術前後のREEを測定し,術前の至適投与量,術後の代謝変動についても比較検討した。

Ⅲ 方 法

1.対象

 高度肥満患者に対して外科的治療を施行した10例(男性4例,女性6例)を対象とした。

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