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炎症と栄養

外科におけるSIRSと栄養

深柄和彦安原洋

栄養-評価と治療 Vol.28 No.3,42-45, 2011

SUMMARY
外科患者ではさまざまな原因で全身性炎症反応症候群(SIRS)が発症しえる。SIRSの診断基準は明確であるが,その病態・病期によって免疫系細胞の機能・抗炎症反応の強さは異なるため,SIRSにおける画一的な栄養療法は確立していない。しかし,代謝と異化の亢進に対する代謝サポート,免疫系細胞の機能正常化・酸化ストレス軽減と抗酸化能改善のための経腸栄養や免疫栄養などの利用が重要であることは確かである。

KEY WORDS
■炎症性メディエーター ■酸化ストレス ■低栄養状態 ■Immunonutrition ■Pharmaconutrition

Ⅰ 外科領域におけるSIRSとは

 全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome;SIRS)における栄養療法を理解するためには,まず,外科領域におけるSIRSについて把握する必要がある。SIRSは高度の炎症反応を生じている患者の治療法確立を目的とした臨床研究における患者のentry criteriaとして提唱された病態の呼称である1)。SIRSの診断基準は,感染症の有無は問わず,①体温38℃以上あるいは36℃未満,②脈拍90回/分以上,③呼吸数20回/分以上またはPaCO2 32mmHg未満,④白血球数12,000/μℓ以上あるいは4,000/μℓ未満あるいは未熟顆粒球10%以上の4項目中2項目以上を満たすことと明確に定義されている。感染症が原因のSIRSをsepsisと呼ぶ。
 SIRSの原因疾患は外傷・熱傷・膵炎・菌血症・真菌血症・寄生虫血症・ウイルス血症など多岐にわたる1)。外科領域においてはこれらの疾患はいずれも起こりえるが,大きく分けて,①外傷などの非感染性侵襲,②細菌性腹膜炎・胆管炎などの感染性侵襲に分けられる。さらに,非感染性の外科的侵襲が加わった後に重篤な感染症を合併する場合,感染巣の治療を目的に外科的手技を加えることによって非感染性の侵襲が加わる場合もよく経験され,これらの患者は非感染性・感染性侵襲のどちらも被っている。
 一般に大きな侵襲が生体に加わると,非感染性・感染性によらず,免疫細胞が活性化しさまざまな炎症性メディエーターが放出される。これらの炎症性メディエーターが複雑なネットワークを形成しつつ惹起する炎症反応がSIRSの病態と認識されている。SIRSが臨床的に重要なのは,激しいSIRS,遷延したSIRSが重要臓器の機能障害を引き起こし予後不良となるからである。したがって,SIRSの予防・早期治療が重要になる。一方,すでに臓器不全を発症した重症SIRSの治療は困難を極め,新規抗菌薬・メディエーター調節作用を有する薬剤・臓器サポートシステムなど,さまざまな新しい治療法が開発されつつある現代においても予後は不良である。

Ⅱ SIRSでは画一的な治療が可能か

 SIRSでみられる過剰な炎症反応は,免疫細胞の過剰活性化によると考えられている。局所に加わった侵襲によって,免疫細胞から大量のサイトカインをはじめとする炎症性メディエーターが産生されると,局所から全身へメディエーターが漏れ出ることによって全身性の炎症反応が生じるという図式である。メディエーターによって過剰に活性化された好中球は,活性酸素などの酸化ストレス・蛋白分解酵素などの組織傷害物質を放出し,血管内皮細胞障害・臓器障害を引き起こす。
 しかし,SIRSにおいて必ずしも免疫細胞の機能が高まっているとは言えない。言い換えれば,「免疫細胞が全身性に活性化した状況=免疫能が高まった状態」とは言えないということである。たとえば,免疫能低下患者で感染局所における病原体処理がスムーズに行われないと,感染を局所で制御することができなくなり,感染が全身に波及してSIRSを生じることになる(図1)。

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