炎症と栄養
炎症性疾患としての肥満と栄養
栄養-評価と治療 Vol.28 No.3, 38-41, 2011
SUMMARY
肥満に伴う慢性的な軽度の炎症が,インスリン抵抗性や動脈硬化の原因であることが明らかにされつつある。肥満の内臓脂肪では,脂肪細胞の肥大・増殖に加えて,炎症性細胞の浸潤や血管新生およびアディポサイトカインの産生異常が生じ,炎症性変化が認められる。本稿では,肥満に伴う炎症性変化,および糖質や脂質などの栄養素と肥満・炎症との関連性について概説する。
KEY WORDS
■肥満 ■炎症 ■内臓脂肪 ■アディポサイトカイン ■脂肪酸
Ⅰ 肥満と内臓脂肪炎症
1.肥満に伴う慢性炎症における内臓脂肪の役割
脂肪組織は,脂質を蓄積するエネルギー貯蔵の組織としてだけではなく,内分泌臓器としても脂肪細胞あるいはその近傍に存在する細胞由来の生理活性物質(総称してアディポサイトカイン)を活発に分泌して全身の代謝に影響を与えている。肥満が進行すると脂肪組織におけるアディポサイトカインの産生パターンは著しく変化し,全身の機能破綻に陥る。肥満症における肥大した内臓脂肪からは遊離脂肪酸,腫瘍壊死因子(tumor necrosis
factor;TNF)-α,インターロイキン(interleukin;IL)-6, 単球遊走因子(monocyte chemoattractant protein;MCP)-1,1型プラスミノゲン活性化抑制因子(plasminogen activator inhibitor-1;PAI-1)などの炎症性サイトカインが産生・分泌され,逆に抗炎症性サイトカインなどを有するアディポネクチンの発現は減少する。また,肥大した脂肪組織からの炎症性サイトカインなどにより,肝臓でもC 反応性蛋白(C-reactive protein;CRP)やアミロイドAなどの炎症性物質が産生される。肥満における炎症の原因となる脂肪組織由来因子(炎症性アディポサイトカイン)について表1 1)に示す。
これらの炎症性アディポサイトカインは,肝臓や骨格筋などの受容体に作用し全身のインスリン抵抗性を惹起し,また血管壁における慢性炎症を惹起し動脈硬化の原因となる。
当初,肥大した脂肪細胞が主たる炎症性アディポサイトカインの産生細胞と考えられていたが,脂肪組織には多数の炎症性細胞が認められることが明らかとなり,炎症性細胞が脂肪組織と相互作用することが,内臓脂肪炎症において中心的な役割を果たすことが明らかにされてきている2)。興味深いことに,このような炎症所見は,皮下脂肪と比較して,内臓脂肪に有意に認められる3)。内臓脂肪型の肥満と皮下脂肪型の肥満におけるインスリン抵抗性・糖尿病や動脈硬化性疾患へのリスクの違いは,慢性炎症の違いで説明できるかもしれない。
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。